STAGE2

2014/9/22 Mon. - 1

Message Skip...


「なぁ、銀くん。その後、真城さんに何か変わったことはないか? あれば教えて欲しい」


 いつになく真剣に聞いてくる。それだけ乃々のことを心配しているのだろう。

 しかし、乃々と約束したのだ。秘密だと。


→●素直に話す

 ○誤魔化す


 だが、銀路は誤魔化そうとして思いとどまる。

 元々、乃々との約束よりも、藍華へ何かあれば報告すると約束した方が先なのだ。


 なのにあのゲーセンの帰り道で、一度、藍華に嘘を吐いている。


 ここでまた誤魔化すことは、藍華に対する重大な裏切りに他ならない。


 藍華は乃々の笑顔を見たがっていた。笑顔嗜癖スマイルアディクトだというのもあるが、その根底には乃々への気遣いがあるのは、これまでの彼女の話を聞いていれば解る。


 乃々を裏切らないために、乃々を気遣う藍華を裏切ってよいのだろうか?


 こんな風に考えてしまった時点で、銀路には、藍華を裏切るなど無理な相談だった。


「変わったことというか……友達になった」


 そうして、これまでの経緯を洗いざらい話した。


 前にゲームセンターの帰りに誤魔化したこと。

 学校では今まで通りに接して欲しいと言われたこと。

 そして、二人の関係を秘密にして欲しいといわれたことも含め、全てを語る。


「それは、凄い朗報だな。話してくれて嬉しいよ」


 そう、感謝の言葉を前置いて、藍華は瞳を厳しくする。


「だけど、だったらさ。あたしに話したら、ダメじゃないのか? 銀くんがあたしに真城さんのことを話したということは、真城さんとの約束を破ったってことだろう?」


 自分に都合がいいことであっても、問題があれば叱ってくれる。

 それが、藍華の真摯さだ。


「解ってる。でも、真城のことで何かあれば藍華姉に教えるって、先にそう約束してただろう? 真城との約束も大切だけど、藍華姉との約束も大切だから」


 銀路も真摯に答えると、銀縁眼鏡の奥の瞳が見開かれる。


「嬉しいこと、言ってくれるじゃないか……」

「え、ちょっと……わ」


 いきなり藍華は銀路を抱き寄せた。

 豊満な胸元に顔を埋める形になり呼吸困難になるが、お構いなしにぎゅっとされる。


「銀くん、前にゲームセンターの前で誤魔化された時点でさ、何か隠してるのは解ってたんだよ。もしかしたら、真城さんのことかな? っとも思ってた」


 どこか噛み締めるような口調で、語る。


「飛躍してるとは思ったけどさ。真城さんがゲームの話に興味を示してるって銀くんが言ってたから、ゲームセンターで何かあったのも真城さん絡みかなって思ってたんだ。でも、それを銀くんは誤魔化した。そうして、銀くんと真城さんの間に、あたしが踏み込めない領域ができたんじゃないかって、寂しかった。あたしから離れていっちゃうんじゃないかって、怖かった」

「藍華姉……」


 普段の豪快さで包み隠されているが、藍華の根は繊細なのだ。

 抱き締められて伝わってくる鼓動はハイテンポ。

 藍華の緊張が伝わってきていた。


「だから今日、銀くんに確認しようって決めてたんだ」


 いつになく真剣だったのは、そういう事情。


「もしも今日、銀くんが隠したなら、もう詮索しないつもりだった。あたしから離れていっても、お姉ちゃんとして見守ろうって、そう思ってた」


 そこで、藍華は銀路を解放する。


「だけど、銀くん。板挟みになりながらも、銀くんはあたしとの約束を守ってくれた。真城さんとの約束を破って、あたしから離れないでくれたんだ!」


 緊張は消え、晴れ晴れとした表情になる藍華。


「だから、責任は取ってもらうよ」


 ことさらに芝居がかった口調は、さっきまでの湿っぽい空気を払拭するためだろう。

 銀路も、それを悟っていつも通りを心がける。


「責任って、何をすればいいんだよ?」

「今日、あたしも一緒にゲームセンターへ行くからさ、真城さんとの間を取り持って欲しい」

「え? 生徒会の仕事はどうするんだ?」


 いつもなら、今から生徒会の仕事があるはずだ。


「そんなもん。気合いで片づけるさ! 仕事終わって帰り次第迎えに行くから、待っててくれ!」


 急展開だった。

 確実に一波乱はありそうな展開だ。


 だけど、藍華がすっかりいつもの調子に戻ったことは素直に嬉しい銀路だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る