2014/9/28 Sun. - 1
今日もゲームセンターで時間を共有し、いつもの喫茶店で話をした後、帰宅の途につく。
すっかり定着してパターン化された二人の時。
だけど、今日はなんだか名残惜しく、喫茶店を出てすぐに別れず、わざわざ遠回りをするように二人で散歩がてら路地を歩いていた。
と、見覚えのない場所に出てしまう。
「あれ? どこだ、ここ?」
周囲は稼働しているのかいないのか解らない古い木造の町工場。
その中に紛れるように、木造の年期の入った建物があった。
外壁に色あせたポスターが貼られ、中からなにやら電子音が流れてくる。
オレンジ色の看板には、黒い毛筆のような字体で横書きに『いぇうぃりふ』と書かれていた。
「ゲームセンター、みたいね」
なんだか興味をそそられたように、乃々が言う。
「そうだな……入ってみるか」
吸い寄せられるように、銀路と乃々は観音開きの扉を潜る。
「って、ん? 前にもこんなことなかったっけ?」
若干の既視感を抱きつつ足を踏み入れた店内は、外観通りのレトロな風情。ピコピコ音と電子のどぎつく鮮やかな光に満たされた空間だ。
「へぇ、中々趣があるわね」
乃々の評価に銀路も同感だった。
店内を見回すと、壁際に並ぶ筐体の中に『レイディアントシルバーガン』が見つかった。
「これは、クリアしていかないといけないわね」
乃々が当然のように口にしたときには、銀色の硬貨がコインシュータを潜っていた。
「音楽が、よく聞こえるわね」
後のステージでも変奏曲的に繰り返し登場する主題が印象的なメロディが流れ始めた。
銀路には決して向けられることのない惚れ惚れする笑顔を浮かべながら、芸術的で魔法のようなプレイが繰り広げられるのだろうが、銀路は筐体から離れてプレイから目を逸らす。
「もう、見て欲しいのに……」
「俺は攻略動画は見ない主義だから」
「そうね。そういう人ね。いいわ。そういう財部君のゲームへのブレないところがわたしは……ってなんでもない」
妙に慌てた様子で言って、プレイに没頭する。その姿を見ているだけで銀路は満足だった。
ゲーム内容は見れなくとも、プレイしている姿で十分に魅せてくれていた。
「エンディングが終わったわよ」
見ようとしない銀路に配慮してか、乃々が終了を知らせてくれる。
「そっか、それじゃぁそろそろ」
出ようか、と言おうとしたところで、
「惚れ惚れするような美事な腕前じゃのう」
幼い音色で老人のような口ぶりの声がした。
「え、な、何……」
銀路と乃々の他に人影はないにも関わらず聞こえてきた声に、イレギュラーを嫌う乃々が怯えている。一方で、その声を聴いた途端に銀路の頭の中はクリアになった。
「遊ちゃんだね」
記憶が呼び覚まされる。これが二周目であることを思い出す。前回よりも慣れている。
「そうじゃ。電子遊戯神、遊ちゃんであるぞ」
遊ちゃんの言葉を合図に世界が変わった。
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