LINK - TO SILVER ROAD -

 笑えないことに気づいてからも、なんとか小学校には通っていたわ。わたしもママも、パパがいなくなってもこれまで通りすごそうと思ってたのね。


 でも、わたしが学校で孤立するのに、そんなに時間はかからなかったわ。


 だって、みんなが笑っている中に笑わない人が一人いると興ざめでしょう?


 一人、また一人とわたしの側に寄ってこなくなって、あっという間にそれまで友達だった人もただのクラスメートになった。


 でも、それでよかった。人といると、その笑顔が本当か嘘か解らなくて、怖かったから。


 それからは一人でいるのが当たり前になって、そのまま小学校を卒業して、中学では最初から人を遠ざけるように振る舞った。


 笑えないなら、表情自体解りにくくしようと、目が隠れるように前髪を伸ばして、陰気な雰囲気も加えて、更に人を遠ざけて。その頃には、もう笑えないことは諦めていた。笑えるようになりたいとも、思わなくなっていた。


 そうして友達のいなくなったわたしは、一人でテレビゲームばかりやっていたわ。ママも、負い目があるからか、好きにさせてくれた。ゲームのハードもソフトも、なんでも買ってくれた。学校へ行く以外は、家に籠もって一人でゲームばかりする日々を送っていたの。


 ゲームは裏切らないから。動かした通りに動く。ミスすればやられるし、ミスしなければクリアできる。同じパターンで動けば、同じ結果が返ってくる。


 当たり前なんだけど、それが嬉しくて、楽しくて。色んなジャンルのゲームをプレイしてきたわ。


 その内に、パターン性の強いゲームを特に好むようになって、去年、 XBOX360 のダウンロードゲームとして配信されていた『レイディアントシルバーガン』に出会ったの。パズルゲームのような厳密なパターン化が要求されて、その根底をなす同じ色を倒し続けるというシステムに裏切らない一途さを感じて、夢中になってプレイしたわ。


 研究に研究を重ねて、パターンを構築して、構築したパターンを反復練習して、いつの間にか、難なくクリアできるようになっていたわ。


 そうして、ある日のプレイ中。ゲーム用の液晶モニタを乗せているラックのガラス扉に、プレイしている自分の顔が映り込んでいるのに気づいた。


 驚いたことに、左右反転したわたしの笑顔がそこには映っていたの。


 もしかして、笑えるようになったのかしら? そう思って色々試したけど、ゲームをしているときだけしか笑えなかった。


 裏切らないパターン性の強いゲームをしているときほど笑えていて、一番はやっぱり『レイディアントシルバーガン』をプレイしているときだった。


 現金なもので、そうするとまた「笑えるようになりたい」って思うようになったのよ。


 だから、ようやく思い出した笑顔を忘れないように、更にあのゲームにのめり込んだ。これが、ちょうど、高校に入学した頃のことよ。


 でも、高校に入っても、人を遠ざけて、笑えないままやっぱり変わらなくて。中学で構築した学生生活のパターンを、そのままなぞる日々だった。その結果、『笑わない魔女』なんて呼ばれているのが滑稽だった。笑えないんだけど、笑える話だとは思った。


 一方で、あのゲームをしていれば笑顔になれたのもまた、おかしかった。『笑わない魔女』の高校生活と、ゲームに向けて笑むわたし。


 そのギャップを段々と意識し始めた。家に籠もってゲームをしているときしか笑えないことが、もどかしくなってきた。


 これでは、自分一人でしか笑えない。学校では、『笑わない魔女』のままだ。


 なら、外で『レイディアントシルバーガン』をしたら、どうだろう? 元はアーケードゲームだったらしいことは調べて知っていた。だから、近所に稼働しているゲーセンがないか、調べてみた。大分古いゲームだから、期待はしていなかった。


 なのにタイミング良く、あのゲームセンターがオープンして、そこで稼働するゲームの中に『レイディアントシルバーガン』があることを知ったの。


 でも、クラスメートに見つかったりしたら面倒だと思った。誰にも邪魔されないで、一人で試したかった。だから、魔女のイメージの帽子と服を身につけて、普段はコンタクトなんだけど、帽子で前髪を分けてかけなくなっていた眼鏡をかけて、自嘲的に『笑わない魔女』を演じることで、クラスメートの目を誤魔化して、わたしは、あのゲーセンへ向かった。


 そうして期待通り、あのゲームをプレイし始めてすぐに、笑顔になれることを知った。


 嬉しかった。

 限定的な条件下でも、数年ぶりに、家の外で笑えたから。


 だから、毎日、繰り返そうと思った。パターン化しようと思った。


 そうしたら、あのゲームをパターン化して笑顔を取り戻したように、普段も笑えるようになるかもしれないから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る