2014/9/20 Sat. - 2
銀路の先導で繁華街から少し外れたところにある、小さな喫茶店へと移動した。
カランカランと心地いいカウベルの音が響く中、乃々を伴って店内へと入ると、すぐにウェイトレスが席へと案内してくれる。
「……いい店ね」
「どうも」
乃々は、銀路がこの店を知っていたのが心底意外だったというのを隠そうとしなかった。
銀路は銀路で、素直に喜べない。
何しろ、この店は以前藍華に教えてもらった店だからだ。
それは言わぬが華だろう。
そんなことを考えていると、
「勿論、ここは貴方の奢りよね?」
「え、なんで?」
「男女が店に入ったら男がお金を払うのがパターンだからよ。わたしはパターンを踏襲するのが好きなの」
「なるほど、そういうものか……ああ、別にいいよ。ここ、安いし」
銀路は、こういうシチュエーションに慣れていない。
なら、パターンに従うのが無難だろうという判断だった。
「……財部くん。貴方はもう少し人を疑うことを覚えた方がいいわよ」
なんだか同情するような目で、そんなことを言われる銀路。
「でも、友達なんだから。疑ってかかるのはよくないだろう?」
ゲームの攻略だってそうだ。
最初から疑ってかかると何でもない仕掛けが大仕掛けに思えて自爆する。
まずは、あるがままを受け入れてそこから探っていくべきだ。
藍華の受け売りも多分に含まれているが、それが銀路なりの正攻法だった。
「はぁ……」
乃々は溜息一つ。
「まぁ、財部くんがそういう人ならそのつもりでいるからいいわ。なら、とりあえず注文しましょう。わたしは、一番高いコーヒーを」
「まぁ、いいけど。うん、せっかくだから俺もそれにしようか」
そう応じると、乃々は赤いフレームの奥から何か不思議なものを見る目を銀路へと向けていた。
「ん? 何か俺の顔についてるか?」
「いいえ……」
一番高いコーヒーでも五百円で、二人分でも千円だ。学生の身には少しばかり痛い出費ながら、こうして藍華以外と二人で喫茶店に来るなんて初めてだ。記念ということで構わない。
銀路はそう思っていたのだが、どうやら乃々は唯々諾々と従う銀路に呆れているようだった。
コーヒーを注文したところで、何となく沈黙が降りる。
何を喋っていいかよく解らない。
しばらくして二人の前に届くコーヒー。
銀路はミルクだけを入れる。
一方で乃々は、
「カフェオレ、じゃないよな、それ?」
「ええ。でも、わたしがコーヒーの味の基本とするのは紙パックのコーヒーよ」
席に備えつけのカップのミルクを大量に入れ、五本ほどスティック砂糖を投入していた。
味の好みは人それぞれだろうから、余り詮索はしないでおこう。
そこで再び会話が途切れてしまった。
銀路は沈黙をどうにかしようと、
「そ、そういえば、休み時間にゲームの話をしていると、俺の方を見てたのはどうしてだ?」
ふと思い出したことを尋ねてみる。
「貴方のゲームに関する話は、中々興味深かったから」
「それは、共感してもらえたってこと?」
「ええ、そうなるわね」
先ほど思わず拍手を送ったゲーム攻略に関する演説のときに感じた、乃々との共感。それを言葉で確認できて、銀路は内心ガッツポーズをする。見えるようにするのは以前咎められたから、そこは試行錯誤でキチンと学んだ銀路だった。
「やっぱり、そうだったんだな。俺はずっと休み時間のときみたいにクラスでは浮いてたからな。ゲーム攻略に対する考え方とか、同じような考えを持ってる同年代の人間が身近にいて、嬉しいんだ」
素直な気持ちを告げる。
「俺は、ゲームが好きだけど熱くなって持論を展開すると大概は引かれた。仕舞いにはゲームの趣味がアラフォーライクだとか言われる始末」
「確かに、昨今のゲームを温いとかなんだとか言って攻略情報とかを頑なに嫌って、若いゲーマーをゆとりだなんだというのはその世代が多いから、間違ってないわね」
「まぁ、育った時代なんだろうね。インターネットが発達してなくて情報もない中、今のゲームよりずっと不親切で理不尽なゲームを自力でクリアするのを余儀なくされてきたんだから、そりゃ、今の世代のゲームに対する感覚と乖離してしまうのも仕方ないだろうけどね」
「でも、そういう財部君は今の世代でしょう?」
「ああ、そうなんだけどな。ただ、リアルアラフォーの両親の影響でね。ネットなんかの攻略情報に頼るのは邪道だとかは、幼い頃からよく聞かされてたから。その上、うちには大概のゲーム機は揃ってて、両親が実際に苦労してプレイしていたゲームをいくつかやらされたからね。勿論、ノーヒントで」
「それはまた、過酷な両親ね……」
「でも、そのお陰で、少々理不尽なゲームでもとにかく試行錯誤を繰り返せばどうにかなることは学んだよ。今、俺が最も大切にしている努力と根性で試行錯誤してゲームへ立ち向かう喜び、そこに熱くなれるものがあるってことを知ることができたから、両親のゲームに関する教育方針には感謝してるよ」
「そう、ご両親を尊敬しているのね。羨ましいわ」
言って銀路を見つめる瞳は、言葉通りの羨望に満ちていた。
「まぁ、うちは極端だけどな。でも、親ってそんなものじゃないのか?」
「そうでも、ないわ」
固い声で乃々。
ただごとではないものを感じて、深く追求はしないことにした。
「そっか……まぁ、親の話は抜きにして、俺がこないだクリアした『ファンタジーゾーン』なんだけど……」
話題を変えて、他愛ない話を続けることにする。
それから小一時間ほど話し込んで、銀路は乃々と別れて帰宅した。
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