2014/9/17 Wed. - 2

 夕方。


 今日もゲームセンターを訪れ、遠目に魔女の姿を眺めていた。

 目映い笑顔を見ているだけで、幸せな気分になれる。

 レバーとボタンを細かく操作する手つきも愛おしく感じられる。


 銀路が立てた戦略は、彼女にちゃんと話しかけて会話すること。

 その戦術は、OOOが何を意味するのか、聞いてみること。


 大丈夫、戦略も戦術もある。


 何度も何度も脳内で話しかけるシミュレーションして備える。


 と、彼女の手が止まる。


 エンディングに到達したのだ。

 その後、少しだけ手が動くのはネームエントリーのため。


 OOOと入れ終われば、彼女は立ち上がる。


 今か今かと待ちわびていた瞬間だ。


 いざ、彼女の元へと動こうとしたところで、


「あ、あれ?」


 足が動かない。

 銀路の体は、緊張でガチガチになってしまっていた。


 ダメだ。このままではまた、爆死で終わる。


 だが、驚いたことに魔女の方がこちらへやってきた。


「いい加減、度胸を出したらどうかしら?」


 目の前に来るや否や、魔女は冷たく言い放つ。


「毎日毎日遠目に見るだけ。気づいてないとでも思っていたのかしら? わたしは、まるでギャルゲーの主人公のような鈍さを発揮する貴方とは違うから、ちゃんと気づいているわよ」

「え、えっと……」


 彼女を目の前にして、緊張は最高潮に達する。


「わたしは、パターン構築が大好きなの。だから、同じ行動を繰り返す貴方に、少しは興味を持っているのよ」

「あ、そ、それは……」


 ゲームなら選択肢を選ぶだけでいいのに、リアルは難しい。

 あれだけ脳内でシミュレーションしたのに、まったく言葉が出てこない。


 戦略に基づく戦術の崩壊。

 今の銀路の心境は、超絶弾幕への絶望的な気合い避けに挑むにも似て。


 要するに、為す術がない。


「まったく、情けないわね。永久ループの稼ぎプレイをしてるんじゃないんだから、いい加減次のステージに進んだらどうかしら?」


 魔女は、冷たい瞳で責めるように告げる。

 ゲームが好きなことが伝わってくる言い回しに一層の興味を覚える。


 だが、彼女への興味が深まれば深まるほど、緊張も強まる。

 銀路の心に降り注ぐ超絶弾幕は、激しさを増す。


 アドリブが苦手な銀路は残機をむざむざ失うがごとく、要領を得ない言葉を発してあたふたするのみ。


「はぁ……」


 これ見よがしな溜息。


「いいわ。どうせ明日も来るのでしょう? なら、頑張って対策を練っておくことね」


 最後までクールに言い放つと、魔女は銀路の前から歩み去った。


 散々な言われようだった。

 何もできなかった己が情けない。


 四度目も爆死。


 だが、これは次に繋がる有意義な爆死だ。

 また、死んで覚えたと思えばいい。

 超絶弾幕も、努力と根性と試行錯誤でいずれは攻略してみせる。


 それに。


 爆死したにもかかわらず、銀路の心は弾んでいた。


 彼女から話かけてくれたことに。

 自分をちゃんと見て興味を持っていてくれたことに。


 だから。


 明日こそは自分から話かけよう。


 銀路は、ささやかな、だけど勇気のいる行為への覚悟を新たにした。

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