剣と魔法とあなたと私

南しぐれ

第1話 プロローグ

大きく明るい月が足元を照らす小道を、少女が金髪を揺らしながら歩いていた。

内緒で家まで遊びに行って驚かせちゃおう

少女は歩みを進める。手に下げた籠にはパンとチーズと葡萄酒。満月を見ながらいい雰囲気になれることを期待して持ってきたのだ。

満月の持つ力が、恋人同士にはまだちょっと遠い関係を1歩前進させてくれたらいいな

少女は淡い期待を胸に、想い人の家の戸を叩いた。

「何故ここに…」

心底驚いて小さな呟きを漏らすやいなや表情を険しくさせた。

「帰ってくれ」

少女は訳が分からず立ち尽くす。彼女の背後では月が大きく満ちていく。

「いいから今すぐ帰るんだ!!」

只ならぬ雰囲気に少女は不安を覚えた。

「ねえ、だいじょう…」

言い切らないうちに少女は突き飛ばされた。横たわる身体の周りにみるみるあかが広がっていく。薄れゆく意識の中で想い人に視線を走らせたが、彼はそこには居なかった。

ただ1匹のけだものが冷徹に少女を見下ろすだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る