乙ゲー世界に転生しました。……男なのに
@SInmasaki
第1話とある悪役令嬢の結末
その少女は公爵家の1つである家に一人娘として生まれた。本来なら両親や、周りからの愛情に満たされ育つ筈だったが……不幸は彼女が生まれた時から始まった。
少女の母親は体が弱く、少女を産むと同時に命を落としてしまったのだ。
それだけなら不幸ではあっても、大切に育てられただろう。だが……少女はアルビノとして生まれたのだ。
色素が抜けて白銀に見える毛髪に、白すぎる程に白すぎる肌。赤い瞳。アルビノについての知識などない無知な人々にとって、少女の容姿と母親の死を関連付けるのは簡単であり、当然の帰路であったのだろう。
少女が物心付いた時には使用人は事務的な態度でしか少女に接しなかった。そして影では少女のせいで母親は死んだのだと、関わった人間を死に追いやる呪われた子なのだと囁きあった。
根も葉もない流言は当然の耳に入ることもあった。
私がお母様を殺したの……?私は居てはいない存在なの?
幼い少女の心は周りの悪意ある流言でズタズタに引き裂かれていった。
そんな中でも救いがあったすれば……父親が周囲の流言など気にせず、ディアナに惜しみ無い愛情を注いだ事だろう。
そして、父親である公爵と国王が幼馴染みの親友同士であったこともあり、ディアナは王太子と婚約する事になる。
王太子との出会いは少女にとって衝撃的なものだった。今まで会った人々は父親と国王を除いて様々な目を少女に向けた。嫉妬、嫌悪、侮蔑、劣情、そんな中で王太子は少女の容姿をどうでも良いと言ったのだ。
王太子の言葉は決して好意などから来るものではなく、単純に異性に大した興味を持たず、婚約者など誰でも言いという無関心から来た言葉だった。
それでも、自分を異物と見ないだけで少女が王太子に好意を抱くには充分だった。
だが、どうにか仲良くなりたいと少女は努力したものの、全てが空回りして、仲を深めることは出来ず、王太子に煩わしいと思われるだけで終わってしまう。
そして、少女が十二歳になる頃、父親であるリグ公爵が過労で亡くなってしまう。
それは少女にとって世界が滅びたようなものだった。自分を唯一愛してくれた存在がいなくなり、心には空虚な絶望だけがあった。普通の女の子ならそこで挫け、世界に希望を抱けずに何かに依存したのかも知れない。
だが……少女の心は気高く、強かった。……あまりにも。
(……いつか褒めてもらうんだ。お父様とお母様に、だから努力しないと、自慢の娘だと言われたいから……)
それから少女は血が滲むような努力をした。王太子の婚約者に相応しい知識を吸収し、立ち振舞いを覚え、生来の美しさに更に磨きをかけた。
少女が十五歳になる頃にはその美しさや、その教養から少女も周りから認められ、他国にさえその美しさを噂される程になっていた。
そんな折……国王から少女は内密に呼ばれて向かうと、国王は少女に頭を垂れた。
慌てて少女が国王を立ち上がらせ、事情を聞くと、隣国の王が少女を求め、差し出さないようなら即座に開戦すると脅してきたと言うのだ。
……聡明な彼女はそれだけで全て分かった。理解してしまったのだ。
彼女が住む国と隣国に国力自体にそれほど差はないが、二年ほど前に起きた『事件』の影響で軍事力には大きな隔たりがあった。二年。せめてあと二年あれば国王達の政策が実を結び、隣国と戦える同等の軍事力を手に入れるだろう。
……だが、現時点で開戦すれば少女の国が隣国へ蹂躙されるの誰にでも分かるほどに明らかだった。
結局、遅いか早いかの違いなのだ。本当に隣国の王が少女を欲しているなら、断った所で力ずくで奪いに来る。
ならば……と少女は国王へ頷くと、少女は自身が『悪役』になる計画を提案した。
それは……あまりにも少女自身の事を考えない計画だった。だが……成功すれば有効な策だった。
少女は国王へ感謝していたのだ。父の死後、周りの風評や、親戚から少女や財産を守ったのは紛れもなく国王で、少女の容姿を忌避しなかった人物だったからだ。第二の父とさえ少女は思っていた。
それから少女は隣国との交渉で半年の猶予を貰い、十五歳になると貴族と才能があると認められた平民が通う国立学園へ入学。
隣国の圧力に屈して王太子の婚約者を差し出したとの風評が流れないように、少女は一人の少女に目をつけると、彼女に嫌がらせなどを行った。そして、裏で動き回り、ある二人の人物の協力を得て、彼女と王太子の仲を取り持つと、王妃に相応しくないとの評価を周りに与えて少女は隣国へ嫁いだ。
……隣国の強欲王と呼ばれる男の物になり、珍しい玩具扱うように好きにされ、余興だと時には違う男達に代わる代わる辱しめを受けた事もあった。
そんな時を過ごし、一年半程の月日がたった頃、少女は強欲王にある提案した。
このような境遇に追いやった故郷を蹂躙してほしい……と、それを聞いた王は笑った。
なるほど……と、だからお前は絶望しながらも目に光を持ち続けていたのかと、人柄はともかく能力的には優秀な強欲王はそれだけで少女の魂胆が全て分かった。
故郷を攻めるように進言し、準備を整えた何処かしらに誘導するつもりなのだろうと……それを理解しながらも王は頷いた。
いいだろうと、お前の気高さに免じてその策に乗ろうと強欲王は少女の提案を受け入れた。
そして、王が出陣する日。強欲王と呼ばれた男は、何を思ったか少女にナイフを渡した。私が負けるにしろ、勝つにしろ、死んだ方がお前は幸せだろう……と、そして強欲王は何事か言いかけて……その場を去った。
少女は渡されたナイフを首元に突き付けた。
(……ああ、私、頑張ったよ?お父様は褒めてくれるかな?お母様は頭を撫でてくれるかな?それとも怒られちゃうかな……)
少女はただそれだけを思い……最後だからだろう。もしも……と考えた。
(……我が儘だけど……『もし』があるなら、誰かと心から愛し合ってをみたかったな)
それは孤独であり続け、強くあろうとした少女が心からの願いだった。
『良いわ。特別よ……?』
最後に少女がナイフで自分の命を絶つとき、囁く声が聞こえ……悪役を演じ、自国の民達を人知れず守った少女はその人生に幕を閉じた。
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