ノイズだらけの【ラジアメ】のこと
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一九八六年 八月ニ十四日(日)
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夢の中、くぐもった電子音が不快に響き続ける。
半ば以上眠ったまま、音の出どころである枕の下に腕をつっこんでアラームを止める。
右目を半分だけ開き、手にしたデジタル時計の盤面を見ると、23:58という数字が浮かび上がっていた。
夜中も夜中、真夜中だ。ドアの外もひっそり静まり返っている。
なんでまたこんな時間に、しかも普段使ってない小さなデジタル時計が、枕の下で鳴り出したんだ……?
いや……うん、そうだよ。寝る前に、自分で入れたんだよ。
夜遅くに家族を起こしてしまわないよう、わざわざ枕の下に小さな目覚ましを仕込んだんだよ。
なんでそんなことをしたかと言うと、それは、確か……。
ようやく本当に目が覚めた。
がばっと身を起こし、枕元のスタンドを付ける。
同じく枕元に準備していたイヤフォンを耳にはめ、CDラジカセのスイッチを入れる。
途端、キーーーンと甲高い音が鼓膜を叩いた。
あ……あれ?
寝る前、なんとかギリギリ聞こえるところまで調整したはずなのに、どうして?
慌ててボリュームを絞り、慎重にダイヤルを操作して目的の周波数を探す。
ザザッ、ザザッと断続的なノイズが入るばかりで、なかなかちゃんとした音声が届かない。
アンテナも伸ばしてくるくる移動させてみたけど、これは特に目立った効果が感じられなかった。
ああっ、もう番組が始まっちゃう。
どうして電波入らないのかなあ?
なにかの弾みにダイヤルが動いちゃったのかなあ?
それとも、時間帯とか天気とかで、受信できる周波数が微妙にズレちゃうんだろうか……?
『……ぅ洋美の……メリカン……』
あっ、聞こえた!
今、確かに「アメリカン」って聞こえた!
間違いない、今流れてるのが【ラジアメ】だ!
ぼくには普段、ラジオを聴く習慣が無い。
だけど、ナムコが提供しているラジオ番組、【斉藤洋美のラジオはアメリカン】は、一度聴いてみたいと思っていた。
ただし、実行するには問題が二つ。
一つは、放送時間が日曜日の深夜であること。
朝五時から登校準備を始めなければならないぼくが、日付の切り替わる時間帯に起きているわけがない。
もう一つが、さらに難問。
うちの県のラジオ局、【ラジアメ】の放送やってない。
そんなわけで長らく聴取はあきらめていたんだけど、お盆休みに手に入れた【NG】を読んでいるうち、むらむらと聴きたい欲求が高まって来た。
試してみると、微弱ながらも、どうにか愛用のCDラジカセで隣の県の電波を拾えることが確認できた。
夏休み中の特別授業は午前中のみ。少しぐらい寝不足になっても、多分なんとかなる。
二学期が始まるまで、あと一週間しかない。
ぼくはラジオのセッティングを入念にすませ、枕の下に小さな目覚ましを仕込んで、【ラジアメ】の聴取を決行した。
それなのに、聞こえて来るのはノイズばかり。
『……三次元グラフィックの……プターは…………ナパームボムで迎撃……ピラー……』
わっ、これ【サンダーセプター】のCMだ!
アーケードゲームのCMなんて聴くの、初めてだ!
初めてなんだけど……なに言ってるのか、全然わからない!
布団にうつ伏せになったまま、必死になってラジオのダイヤルを操作する。
あっ、少し聞こえた! 今の男の人の声が、きっと「鶴間さん」だ。
……ああっ、またノイズの方が大きくなった。
洋美さんも鶴間さんも笑ってるけど、今、どんなハガキが読まれたんだろう……?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
気が付くと、いつもの目覚まし時計が鳴り響いていた。
時刻は五時。カーテンの隙間からほんのり朝の光が漏れ込んでいる。
ラジオを操作しながら、いつの間にか寝ちゃってたらしい。
イヤフォンは耳から外れ、布団の端でかすかにノイズを流し続けていた。
どうにか目覚ましとラジオを止めて身を起こしたものの、はっきり言って、まだ眠い。
身体がだるい。頭が重い。
先週に引き続き、またも寝不足で月曜日を迎えてしまった。
やっぱりぼくの生活環境で【ラジアメ】を聴くのは無理があったか。
残念……。
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