魔導狩人 =夢見人=
arm1475
その1
魔導界〈ラヴィーン〉。そこはあらゆる世界の始まり、そしてあらゆる世界から放逐された人々の為の約束の地。
かつて〈ラヴィーン〉に世界の覇を唱えた、魔皇、と呼ばれた男が居た。
恐怖と暴力、そして最強の力を持つ〈魔皇の剣〉によって世界を支配せんとしたが、一人の勇者によってそれは潰えた。
時が流れ、〈魔皇の剣〉は一人の若き魔導狩人の手に渡る。
魔導狩人。人々は、かつて魔皇が世界征服に用いた数々の魔導器による災害を防ぎ、解決する仕事を請け負う冒険者をそう呼ぶ。
奇縁の末に〈魔皇の剣〉を手に入れた若き魔導狩人、瑞原鞘(みずはらしょう)。彼が魔皇の忘れ形見だという事を知る者は少ない。
遙かなる異世界からやってきた、魔皇に縁し若者の手にその力が委ねられた時より、若き魔導器狩人と〈魔皇の剣〉の冒険が始まった。――
「ねぇ、おにいちゃん。じぶんにはみえて、ほかの人にはみえないモノって、なぁんだ?」
日中歩き詰めで漸く辿り着いた、夕暮れの宿屋の玄関先で、瑞原鞘はいきなりの謎掛けに面食らう。
鞘に謎掛けたのは、一人の少女であった。
14歳の鞘より少し年下、恐らく十歳ぐらいだろうか、ランドセルが似合いそうな、なかなか可愛い娘である。
但し、鞘が、元居た二十世紀末の日本から迷い込んでしまった、剣と魔導法術が支配するこの異世界〈ラヴィーン〉にも小学校が有るのならば、の話だが。
ピンクのワンピースの上に赤い頭巾を被り、鞘に声を掛ける際、レム、と名乗った金髪の少女は、宿の玄関の扉に背もたれして、鞘に微笑みながらじっと見つめていた。
レムに見つめられている鞘は、余りにも不意の事であった為に、謎掛けられている事を忘れてしまい、返答に窮してしまった。
「どうしたの、鞘?」
助け船を出したのは、鞘の傍らにいた相棒の美女、カタナであった。
「――え?あ、あぁ、そこにいる娘からなぞなぞされちゃってさ」
「そこに居る子?……何処にそンな子が?」
小首を傾げるカタナに、鞘はレムが居た玄関の方へ、顎をしゃくって示した。
赤頭巾の少女の姿は、そこからいつの間にか消えていた。
「しっかりしてくださいよぉ、鞘。先から貴方の隣に居ましたけど、そンな子は見えませンでしたわよ」
「いや……だって、確かに先までそこに……?」
「もしかして、白昼夢、ってモノを見ていたのでは?」
「はくちゅうむぅ?」
「一日中歩き詰めだったから、疲れているンですよ。
肉体を持つ生き物は、あたし達と違って脳髄に感覚を支配されているから、疲労すると夢と現の区別が付かなくなるそうじゃありませンか。
明日の昼までに、隣村のシャ・ハに居るイチエさン達と合流するには、朝早くこのエムタ村を出なければいけないから、今夜は早く寝てくださいね」
鞘を労るカタナは、ニコリと微笑むと、宙に残像を残しながらトンボを切り、鞘が背負っている革袋に収まる、自らの本体である大刀の柄の先に腰を下ろして留まった。
その小心翼々な態度を体現しているかの様に、鞘の相棒は僅か三十センチ足らずの背丈しかないが、しかし無双の力を秘めた魔導剣の守護神霊なのである。
鞘の顔を伺い見るカタナに、鞘は、〈ラヴィーン〉に紛れ込んでから、ずうっと着たきりである学生服の上に纏う防寒用マントの間から出した掌を振って、大丈夫だよ、と応える。
鞘は未だ納得出来ないらしく、小首を傾げたまま、宿屋の玄関を潜って行った。
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