第2話 密室空間内での出逢い
やっと見つけた・・・!
息を切らしながら安堵する。
「!!」
しかしその直後、喉元に何かが突き立てられている事に気がついた。
ほんの瞬き一回の内に女性は瞳を閉じたまま、自分に対して刀を向けてきたのだ。
「警備員じゃない・・・よ?」
誤解を解くつもりでそう口にしたが、あまりに突然の出来事で声が上ずっていた。
抜刀の瞬間…速すぎて全然見えなかった…!!
この時セキは、相手が凄腕の剣士である事を直感したのである。
彼女は2秒程考えた後、視線をこちらに向けないまま口を開く。
「・・・エレベーターのドアを閉めて」
その
どうやらエレベーターはドアが開いた後、すぐには閉まらないらしい。もし、この場に先程の警備員がいたら確実に捕まっていたであろう。
危なかった…
セキは内心で安堵していたのである。
「なぜ、エレベーター内に隠れていたの?」
「ボタンを押さないでそのまま止まっていれば、奴らに“停まっている階に降りて逃げた“と思わせられるから」
女性は、そう瞬時に答えた。
「あなたも旅人みたいだけど・・・調べ物?」
「うん、ちょっとね」
彼女の問いかけは聞かれるだろうと予測済みだったので、とりあえずは少し曖昧な返事を返す。
「君も調べ物?」
「ええ。でも、ギルドの仕事だから…これ以上の詮索はしないでね」
彼女は顔色一つ変えもせずに述べる。
ギルドの依頼をこなしているって事…か
セキは、相手の目的を理解する。
ギルドとは一般人や政府の要人などからお金をもらい、魔物退治・捜索・労働など、いろんな仕事を請け負う、いわばなんでも屋を指す。ギルド所属者の掟として「仕事内容を第三者に話してはいけない」というものがある。それは、ギルドでは大きな声では言えない重要任務や非合法な任務も請け負うからだそうだ。俺はギルドに所属してないから詳しくは知らないが、とりあえずこれ以上の詮索はしない事にした。
ここまで登ってくるのに結構体力使ったから、一休みもしたいし・・・
深呼吸をしながらそんな思いがよぎったセキは、再び口を開く。
「俺は、セキ・ハズミ。君は・・・?」
「・・・私はミヤ」
「ミヤかぁ・・・いい名前だね」
姓を名乗らない事に対して違和感を覚えたが、とりあえずセキは会話を続けてみた。
「そんなことより、あなたはちゃんとした脱出手段あるの?」
「え!?」
しかし、思わぬ
脱出手段のことなんて、考えてもいなかった・・・
「・・・もしかして、ないの?」
「いやぁ・・・まぁ、そんなかんじ・・・」
焦っているのを悟られたのか、少し不平そうな声がミヤから聞こえてくる。
そこで俺は、自分の計画性のなさがわかった瞬間だった。
不機嫌そうな顔をしたミヤは、更に話を続ける。
「脱出手段を用意しないで、よくここまで来れたわね。“今は”街の状態も普通だけど、時間になったら・・・」
呆れ果てたような口調で、彼女はその先を述べようとした。しかし―――――
「わっ…?!」
何かと衝突したような音と揺れを感じた。
「しまった…!!」
何が起きたのかさっぱりわからない自分に対し、ミヤは何が起きたか気付いたようだ。
「一体、何が起きたんだ??」
「エレベーターが自動から手動に切り替えられたわ」
「手動?・・・ということは・・・」
「…エレベーターに隠れているのがばれたってことね」
「ゲッ!!」
思わず俺は、だみ声を口に出してしまう。
しかし、今は“女の子の目の前で下品な言い方は良くない”とか悠長に考えてる暇はなかったのである。
「やばいよ、どうすればいいんだ!?」
「私をおんぶして」
「……はい」
独り慌てている俺に対し、ミヤは冷静に対処していた。
そのため、今の一言で黙らせられたのである。
「天井のハッチを開けて脱出するわよ」
彼女の
「俺が開けようか?」
「大丈夫」
きっぱりと答えた彼女は、年頃の女性では開けられなさそうな天井のハッチを、一発で開けたのである。
ミヤがハッチから抜け出した後、俺もすぐに抜け出した。エレベーターの外は暗く、下の方では機械の音が響いている。しかし、底が全く見えないのには身震いがした。このビルに入った時、一見した所で50階くらいはありそうだったし、自分が乗った階も20階辺りだったので、高さがあるのは当然のことだ。
「この先どうするの?」
「今停まっている所の、すぐ上のドアを手で開けるわ」
俺の問いに対し、彼女はそのように答えを告げる。
彼女の判断力の速さに、驚いている自分がいた。流石、ギルドに所属しているだけのことはある。
・・・でも、皆が皆、こんなに冷静に対応できるものなのだろうか?
一瞬考えている内にミヤは自分一人の力で上階のドアを開けようとしていたのである。流石にこれを一人で開けるのは難しいだろうと考え、自分が開けることにした。
両手の指でドアを押さえて開けようとしたが、やはり開けづらい。元々は自動で動き、その動きはコンピューターが管理しているので、当然だ。指がちぎれるのは嫌だとは思ったものの、こんな暗い空間にずっといるのは絶対に嫌なので、渾身の力をこめた。
すると、何とか開けることに成功。その直後、エレベーターの外によじ登り、ミヤの腕をつかんでひっぱり上げたのである。
「この後・・・どうするんだ?」
俺は、この先の事を訊いた。
彼女は一瞬考え込むが、すぐに答えを告げる。
「・・・屋上へ向かうわ」
ミヤは、口を動かしながら立ち上がったのである。
「あの女は何処だ!?」
2・3人くらいの足音と共にその台詞が聞こえてきた。
「やばい、警備員の奴らだ!!」
すぐに俺達は、2人で階段を登り始めた。
まだ屋上まで半分近くあるけれど、エレベーターが使えない以上は階段で行くしかない。屋上に行って無事に脱出できるかもわからないし、彼女が持っている「脱出手段」が何なのか全くわからないが、俺とミヤは無我夢中で屋上を目指すのであった。
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