第1話 目的の物を求めて

「ご注文は何にしますか?」

カフェの席でうなだれていると、店員が自分に声をかけてきた。

「あー・・・結構です」

特に飲みたい物がない俺は、すぐにその場で断った。

時間があまりないかもな…

自分の胸中には、そんな思いが芽生えていた。

 お祭りでもないのに大勢の人々が街中を行きかい、その背後には高層ビルと呼ばれる背の高い建物が並んでいる。「ここは俺が住んでる国とはだいぶ違うな」という想いを抱きながら、青年は歩き始めた。

俺――――セキ・ハズミがこの都市「トウケウ」に来た理由は「マカボルン」の手がかりを探すためだ。マカボルンは別名では「賢者の石」、俺の国では「妖石ようせき」と呼ばれるくらい世界中の誰もが知っている魔石。

これを探し出すために幾人もの学者が頭をかかえ、冒険者が命を落としたことか。それでも、その伝説級の代物を探し出さなければならない。自らの目的のためにも…そんな強い想いを抱いてこの都市を訪れていた。

 先程から、変な視線で見られているような気がする・・・服装のせいだろうか?

確かに、この「着物」のようで少し着崩している格好というのは、故国の人から見ても珍しい。それに、黒髪・藍色の瞳という外見も自分だけなので、変に目立っているかもしれない。  


そのような事を考えている内に、セキは資料探しに相応しい図書館に到着していた。図書館はどこにでもあるが、ここでは内部に機械が多い。床を綺麗にする人形みたいな形の「ロボット」、箱みたいな形だが蔵書検索ができるという機械「コンピュータ」だ。

だが、この街では「街のモノに手を出してはいけない」という旅人の間でのルールがある。それを噂で聞いていたため、むやみやたらに触ることはできなかった。

しかし、自分がこの図書館に来た目的は館内にある本を持ち出すという行為のため、触れたとたんに何かが起こるのは目に見えている。

 ・・・慎重に選ばねば

手に汗握るような想いで、俺は資料を探し始める。


マカボルンはおそらく「古代史」と言われる歴史の分類にあるだろうと考え、その分類がある本棚へ向かうことにした。歩いていると、ヒールのある靴を履いているような足音が響いてくる。歩く俺の視線に入ってきたのは、早歩きでこちらに向かってきた一人の女性であった。

すれ違った瞬間、自分の視界に飛び込んできたものを目の当たりにして、俺は驚く。その茶髪の女性が持っていた2冊の本の内、一つに“マカボルン”と書かれていたからだ。しかも、刀を腰に携えていたところから、自分と同じ旅人であるという事も悟る。

「持っている剣に目がいってしまうのは、剣士の性かな」と、思うや否や、彼女の後ろから同じ服を着た「警備員」という男が数名、自分とは逆の方角に走り出していた。

 あっという間の出来事に呆然としていたが、セキはすぐに我に返る。

「このままじゃ持ち逃げされちゃうじゃねぇかよっ!」

思わず自分にツッコミを入れてしまい、すぐさま彼らを追いかけ始めた。


両名とも図書館の地下口から地上に出て、街の中央の方角へ走っている。彼女はおそらく、自分と同じく館内の本を持ち出したから追いかけられているのだろう。

捕まる訳にはいかないだろうからすぐに街の出口へ向かうのかと思っていたら、警備員は出口とは真逆の方向に向かって走っていく。

「どこに向かうのか」と考えながら、見失った彼女を探して辺りを見回した。自分の周りには「スーツ」と呼ばれる黒い服を着た男女がたくさん行き来していた。すると、茶髪で全身が黒の女性が高層ビルの正面入り口から中に入っていくのを発見する。先程見かけた刀も下げていた。

すぐさま彼女を追いかけようと思ったが、見るからに警備が厳重そうに見えたため、流石に正面突破は難しいだろう。そのため、裏口から回ることにしたのである。

あの警備員に捕まったら、どんな目に遭わされるかわからないし…

そんな思いを胸に抱えながら、セキは裏口へ向かう。

 到着すると、そこにも警備員がいた。茶髪の女性を追いかけたいが、極力この街の「人」と衝突したくない。ビルの柱の影に隠れながら一瞬考えたが、「この機会を逃せば、次にこの街へ“入れる”のは1年後だ」という考えから、後を追うことにした。

 警備員には申し訳なく感じつつも、溝落ちに当て身を一発食らわせて気絶させたのである。その警備員が持っていた白いカードを「リーダ」という機械にあてると、簡単に施錠を解除できた。やはり、このカードがビルに入る鍵らしい。

 

 ビルに入ってからはなるべく人との接触を避けるため、階段を登り始める。体力には自信があったものの、外で見た高層ビルと同じような高さの建物のため、次第に登るのが疲れてきたセキであった。

…そもそも、彼女はどの階にいるのだろう?

不意にそう思った時、階段のすぐそばに自分でも知っている「エレベーター」を発見する。しかも、ちょうど自分がいる階に止まっている事に気付く。

よし…!

丁度良いと感じたセキは、上矢印が書かれたボタンを押す。鈴の音のように高い音が鳴ったのと同時に、エレベータの扉が開く。

すると、そこには隅っこに座り込んでいるあの茶髪の女性の姿があった。

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