遅めのバレンタイン
星原ルナ
本編
プロローグ 心の叫び
プロローグ
「バカヤロー!」
町に存在する小高い丘の上。丘から町ほぼ全体を一望出来る展望台デッキで、私は町並みに向かって大声を出していた。何故、その言葉が発したかは分からない。ただ、大声を出してみたくなっただけ。太陽が沈み始めた夕方のことだった。
学校が終わってすぐにこの丘に寄るのがもはや日課になりつつある。一時間ほどは展望台に居続けているため、携帯の画面で確認すると時刻は五時を過ぎていた。時間を忘れてしまうほど、町の眺めは悪くない。
いつも通る通学路や、学校、自宅がミニチュアのように小さく感じる。見上げた空の左側はやや暗めの空色に、右側は夕日のオレンジ色で染まっているだけでなく、町の一部も夕日色に変わり、神秘的な景色を生み出していた。
私の目には大粒の涙がこぼれ落ちそうな感覚を覚え、滴り落ちる前に右手の甲でぬぐい去る。感動して泣いている訳じゃない。ただ、嫌なことがあったから泣いているだけ。
後ろを振り返ってみるけど、目前にベンチと他は木が無数に植えられていた。周りを見回しても、人一人いない。『孤独』という単語が頭の中に思い浮かぶ。しかし、私は直ぐに納得した。
……それもそうか。
寂しいなと思ったけども、よく考えれば今は来るのが早すぎたかもしれない。
……え? どうしてかって?
だって、『アレ』の季節だもの。そう。アレの日になれば、カップルで埋め尽くされる。
その前に、一言叫ばせて下さい。
「バレンタインなんて、ダイッキライだ――――!」
私はもう一度町並みの方向へ振り返ると、精一杯の音量で叫んだ。ふう、スッキリした。
アレというのはもちろん、バレンタイン。
二月に入った今、一番熱くなる行事と言わわれればそうかもしれない。
どうして嫌いかって言われれば、私とバレンタインの相性が悪い。私がバレンタインに参加しようと決めた時に限って材料は全て売り切れ。既製品のチョコレートも完売。たまに神様はイタズラだって思うことはありますよ。もちろん、神様のせいにしても何も変わらないことはわかってる。
もうわかっているかもしれないけど、私には好きな人がいる。片思いという奴ね。
好きな人に簡単に告白できる人が羨ましい。
だって、好きな人ですよ!? 告白しろと命令されたって、そう簡単にできるものじゃない。そりゃあ、少しは抵抗しますよ。
心地よく優しい風が、私に当たりながら吹き抜けていく。
町は変わらない様で、少しずつ変化する。そこに住む人々も、建物も。変わらないのは私だけかもしれない。いや、変わろうとしないだけ。もし、変われば私は、私の未来は変わっていくのだろうか――――。
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