第38話 考察

 むぅ、朝か……。

 朝陽が差し込み、鳥の鳴き声が心地よく耳に入ってくる。

 体の疲れはある程度とれ、いくぶん楽になっている。夢も見ずぐっすり眠れたからかな。


 安眠できたのも、きっとこのマクラのおかげだろう。この質量。この柔らかさ。あれ、俺こんな高級マクラ持ってたっけ? まあいいか。もう少しこのままでいたい。2度寝しちゃおうかな……。

 引き続きマクラに顔をうずめ、すりすりしていると、不意にとてつもない殺気が頭上から降ってきた。


 なんだろう、この恐ろしくも懐かしい感じ。 あ、思い出した。朝、偶然に、本当に偶然にもティオの胸を触ってしまったあの時だ。

 と、いうことは……皆さんもおわかりでしょう? ええそうですそうです命の危険ですはい。


 そーっと、そーっと頭を離していく。

 止むことのない殺気。聞こえない寝息。

 そしてばっちり合う目と目。


「……おはようございます、ユキトさん。昨日はよく寝られましたでしょうか」

「おはよう、ソーマ。ああ、おかげさまでよく眠れたよ」

「それはよきことです。さ、では私は食べられそうな木の実でもさがして」

「ソーマ」

「はい」

「正座」

「……はい」


 その後、軽く10分ほどお説教されました。 なぜ10分ですんだのかというと、説教の話から騎士道の話に飛びそうだったのをなんとか抑え、さっきの出来事は完全に偶然だったのだと理解してもらったからだ。


 怒りながらも羞恥に頬を染めるユキトさん可愛かったです、なんて言ったらまた怒られそうだからやめとこう。


 それから俺とユキトは魚や木の実などを食べて腹を満たした後、町や村を探すため洞穴を後にした。

 たわいもない話をしながら森の中を歩く。整備されている道を見つけられればいいのだが。

 急にユキトが真面目な口調で話しかけてきた。 


「ソーマは契約竜と話したことがないと言っていたが、君の方から話しかけてもダメだったのか?」

「試してみたけどダメだった。でも最近、断片的に声が聞こえるんだよ。我が主よ、とか」

「ふむ、徐々に近づいてきている証だな。しかしそれほど離れていながら戦闘で使うに足る魔法を発動できるのは驚異的なことだ。好奇心をかき立てられる。【竜の爪痕】が2つあることと関係があるのか? それとも契約竜があまりに特殊なのか?」


 ユキトは目を輝かせて俺を質問攻めにする。やっぱり以前思った通り、ユキトは学者肌なのかもしれない。活発そうな見た目とのギャップがなんとも面白い。


「落ち着け落ち着け。【竜の爪痕】が2つあることと契約竜が特殊だっていうのはおそらく関係がある、そうだ。ティオが言うには。俺自身は魔法を使うときは両手に意識を集中させてる」

「聞いたことないな……相当特殊、希少な竜だと思われる。両手に集中させている、ということはおそらく右手と左手の二カ所から魔力供給を受けているということだろう。単純に考えて出力は一般的な竜契約者の2倍。竜人化した場合、恩恵も桁違い……」


 声の大きさがどんどん小さくなっていき、ただブツブツと呟くだけになる。顔がにやついててちょっと怖い。


「そうだ、ユキトの竜は?」

「私をかばって深手を負ったせいかまだ連絡がつかないんだ…まあ、あいつなら大丈夫だろう。頑丈さだけが取り柄みたいな竜だからな」


 慈愛に満ちた表情から、自分の契約竜を信頼していることがわかる。きっと契約を結んだ幼い頃から共に過ごしてきたのだろう。そういう思い出があるのは素直にうらやましい。

 これで竜による移動は見込めなくなったわけだ。地道に傷を癒せる場所を探すか。


 しばらく歩くと、前方に湖が見えてきた。

 小さいが、森の中にポツンと存在しているそこはまさに精霊の湖といった様子で、陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

 ふーん、こんなトコもあるんだな。きれいだなぁ。

 なんて、俺は特に気にせず通り過ぎようとしたが、ユキトはなぜか足を止めた。


「どうした? 何かあったのか?」


 俺がそう言うと、ユキトはもじもじしながらこう言った。


「いや、その、なんだ。数日風呂に入ってなくてだな、水浴びをしたいと思ってな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る