第24話 不思議な夢とリーサ

『……主よ……我が主よ……』


 んん、なんだよ…眠いよ……。


『……聞け、我が主よ……主の元に、邪なる存在が近づいている……』


 なんだよそれ、訳わかんないよ……邪なる存在って……。


『……遠い昔、英雄マテリアと、豪傑グレンによって封印された邪竜……その封印が、解かれたのだ……』


 何か聞いたことのある名前だな……邪竜、そんなに危険なやつなのか……。


『……やつは必ずこの世界に災厄をもたらす……グレンの地には近づかない方がよい……』


 グレン帝国にいるのか、そいつは……。


『……そうだ。くれぐれも我がそちらに着くまでは動かないでほしい……』


 早く来てくれよ……お前が来ないから魔術だって使用制限がかかってるんだ……。


『……むしろちょうどよい。主の体に慣れさせるにはな。我の魔力は強大故……』


 お前、そんなにすごいのか……。


『……そこらの竜と一緒にしてもらっては困る。我も早く主の元へ行きたいのだが、邪竜のしもべに妨害されていてな……』


 時間、かかるのか……。


『……うむ。だから主よ、我が到着するまで、くれぐれも用心するのだ……』


 わかったよ……。


「…マ」

 んんー。

「…ーマ」

 もうちょっと寝かせてよ…。

「ソーマったら!」


 おおう! 耳がキーンって!

 目を開けると、ティオが心配そうにこちらをのぞき込んでいた。つやつやの金髪が朝日を浴びてキラキラ輝いていて眩しい。


「おはようティオ」

「うん、おはよう…じゃなくて! うなされてたけど大丈夫?」

「なーんか変な夢を見ていた気がしたんだけど、覚えてないなぁ」


 なんとなくだけど、いつも見る普通の夢とは違った気がした。説明はできないけど。

 まあいいか。何かのひょうしに思い出すかもしれないし。


「そう、たいしたことなくてよかった。竜魔法には夢に作用するものもあるから、一応ね」


 そんなのもあるのか。割と色々できるんだな、竜魔法って。精神に干渉する魔法はまだ見たことないけど、音波あたり使えそうだな。今度聞いてみよう。


 ティオはよっとベッドから降りて、着替えをはじめる。なまめかしいおへそ、真っ白な肌。そして胸元へと…。


「ソーマ、私、言ったわよね? 着替えの時は外に出てほしいって」


 はい、サービスシーン終了。うーん、あとちょっとだったんだけどな、残念。

 このままだとまたあの風魔法が飛んでくるので、素早く退散した。すでにこのやりとりは恒例行事と化していて、これがないと落ち着かない。ティオにとってはいい迷惑だろうけど、最近ちょっと怒りレベルが低くなった気がする。気のせいかな。


 そこからはいつも通りだ。朝食を食べ、ティオのお兄さんについての調査をし、後はひたすら特訓。

 今は、もはや日課になっている夜の素振り中。音波が来るまでの間だけだけどね。


 一通り型を終え、休憩を取る。


『だいぶ上達したわねえ。ティオちゃんの教え方が上手だからかしら』

「おお、リーサか。お前最近でてこないけど、どうしたんだ?」

『魔力を貯めてるのよ。この宝玉、容量が大きくて、まだまだ余裕があるわ』 

「あれ、供給魔力量が多くなってきたからもっと話せるようになったんじゃなかったっけ」

『やろうとすればできるんだけど、もしもの時、緊急時のために節約してるのよ。私って堅実でしょ? 惚れた?』

「はいはい惚れた惚れた」

『えーどうしよーおねえさん困っちゃうなー。でも私には愛する人がいるから、ごめんね☆』


 やれやれ、リーサと話す時はいつもこれだ。そろそろいつも言っている愛する人や、昔のことが気になってきた。前は断られたけど、もう一度聞いてみようか。気が向いたとき話してくれるって言ってたしな。


「なあリーサ、その愛する人って誰なんだ? その人が、お前がこっちに留まる理由か?」

『なぁに、私のこと気になるの? かわいいなーもう』

「ああ、気になる。教えてくれないか。無理にとは言わないけど」


 向こうの声音はふざけたような感じだったが、俺はいたって真面目にお願いをする。

 リーサにもそれが伝わったのか、声音が本来のものに戻り、答える。


『わかった。じゃあちょっとだけ話してあげるわ』

「うん」


 一呼吸置き、ゆっくりと話しはじめた。


『私はね、決して高いとはいえない身分だった。でも、私の愛した人は、とてもとても高い身分の人だった』


 貴族や王族が存在する王制ならではだな。身分など存在しない世界から来た俺には想像することしかできない。


『彼もまた、私を愛してくれた。幸せだったわ。満ち足りた日々。お金はあまりなくて生活は苦しかったけど、彼がいたから幸せだった。人間ってすごいわよね、愛する人が近くにいるだけで、誰もが求める幸せを簡単に手に入れられてしまうんだもの』


 淡々と話していたリーサだったが、除々に声音が明るくなっていった。話しぶりといい、リーサはその人を心の底から愛していたんだろうな。その人も、きっと同じだったはずだ。


『でもね、幸せって長くは続かないものなの。身分違いの恋がどれだけ危険で、この国では許されないことなのか、当時の私たちはわかっていなかった。理解していなかった。認識が甘かった。上手く隠せるって思いこんでたのよ。若かったからかなぁ』


 この先を聞いたら、引き返せなくなるような気がする。聞くのは怖いが、聞かなければならないという義務感もまた湧いてくる。


『はい、今日はここまで! 暗い話おしまーい!』

「ここで終わり!? 俺の心の準備は整ってたのに!」

『だってこの後も音波ちゃんに特訓してもらうんでしょ? 支障がでたら嫌じゃない。だから、ここまで』


 リーサがそう言うなら仕方ないか。先がとても気になるけど、聞かなくてどこかホッとしてる自分もいる。


『あ、でもこれだけは言っておくわ。私がこの剣の中にいるのは、ちゃんと自分の目的のためよ。ソーマ、というよりティオちゃんに着いていけば、あの人につながるような、そんな気がしてるから。まあただのカンなんだけどね』


 カンかよ! でもリーサがいいなら、それでいいか。ティオと一緒にいるだけで少しは役に立ててるってことかな。


『あ、音波ちゃん来たみたいよ。お話のキリもいいし、私は寝るわね。さっき話したこと、一応ティオちゃんには言わないように。じゃねー』


 そう言ってリーサは眠りについてしまった。いなくなるときは本当あっさりいなくなるなー。


「ソーマ、独り言なんて言ってどうしたの? 悩みがあったら何でも言って。親身に相談に乗る。親身に」


 なぜ親身をそんなに強調するんだこいつは。


「すみません、間に合ってます」


 いつか、さっきの話の続きを聞くことになるかもしれない。その時は、どんな顔して聞けばいいんだろうな。

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