第13話 旅の目的
入り口で待っていたメイルと合流した後、宿に戻った俺たちは部屋に着くなりベッドに倒れ込み爆睡。
ちなみに前科持ちの俺は両手をぐるぐる巻きにされました。これで安心。安心、だよな?
帰る途中に明日以降のことを話したが、戦力になるよう特訓してくれるらしい。偶然手に入れた魔宝剣による剣術と、これまた偶然使えるようになった魔法の使い方を教えてくれるそうだ。
これは非常にありがたい。戦闘では役立たずだった俺が、多少は役に立つことができるようになるかもしれないのだから。
意気込んでいた俺だったが、はじめての魔法は体への負荷が大きく、またティオもグレン帝国兵との戦闘で疲弊していたため、とりあえず明日はお休みで、明後日から特訓が開始される。
だから、俺たちは安心して寝ることができたわけだ。
でもね、安心じゃなかった。言い方おかしいけど安心じゃなかった。手をぐるぐる巻きにしたくらいじゃ。
俺の顔は今、至福の柔らかさに包まれている。目が覚めた瞬間、わかっちゃったんだ。この幸せの代償はあまりにも大きいんだって。それにしてもティオさん以外に胸ありますね。感服です。
案の定というかなんというか、ティオもすぐに目を覚ます。
「おふぁほうおあいまふ」
「うー、おはよう、ソーマ」
まだ少し寝ぼけているようで、焦点が合っていない。
これ幸いとゆっくーり、ゆっくーりと離れようとした瞬間、頭をガシッっとつかまれた。
うわぁ、まるで万力にはさまれてるみたいだすごーいあははー。
「ティ、ティオさん? とても痛いのですが」
「その前に何か言い残すことはないかしら?」
すごい。一瞬で覚醒してる。俺って目覚まし時計としては優秀じゃないか? 意外な才能発見しちゃった。
「え? 言うこと、じゃなくて言い残すことなんですか? 救いはないんですか?」
「この世界は無情よ」
「で、ですよねー。じゃあ最後に。ティオの谷間、最高だ…」
以下、前日のパターン。感想。空を舞うのに早くも慣れてきました。
その後朝食をとり、メイルの様子を見に行って再び町に戻ってきたが、やることがなくなった。
今日は休日なのか大通りは人でごったがえしていて、実に歩きにくい。はぐれないよう必然的に身を寄せ合って歩くのだが、隣から妙に良い香りがして落ち着かないんだよなぁ。
「今日は休養の日って決めたけど、やることがなくなったわね。どうしようソーマ」
「逆に聞くけど、ティオは普段どう過ごしてるんだ?」
「えーと、平日は色々なところへ行って情報収集。それと同時に鍛錬かな。魔法中心の。休日はメイルとのんびりしたり、ただ寝てるだけだったり」
「うっはあ、俺と全然違うな。休日は似たようなものだけど。どんな情報を集めてるんだ?」
「そういえばまだ話してなかったわね。私の旅の目的」
はじめて会った日はバタバタしてて結局後回しになってた話か。気にはなっていたが聞けるタイミングがなかなか見つからなかった。
「私はね、行方不明になった兄を探しているの」
兄。ティオがうなされていた夢の中にでてきたであろう人物。やっぱり関係していたんだな。
「そうだったのか…」
「忘れもしない、4年前のあの日。父が暗殺されそうになって、その犯人が、兄だった。何人もの追っ手から逃れ続け、今なお行方がわからないの」
そう語るティオは沈痛な面持ちで、俺は言葉を返すことができなかった。
それっきり黙ってしまい、お互い無言で宿への道のりを歩む。
旅の目的は想像以上に衝撃的で、平々凡々な日々を送ってきた俺は、上手くイメージできなかった。
宿の入り口に着いたとき、やっとティオが口を開く。
「ごめんね、暗い雰囲気にしちゃって。兄を探して真相を聞き出す、ただそれだけの話。犯罪者を探すわけだから当然危険は付き物だし、まだまだ情報も少ない。だから、無理強いはできない。気軽に相棒にならないか、なんて誘うべきじゃなかったのかもしれないわね」
不安そうに揺れる瞳と、空元気なのが丸わかりな口調。
そんな顔すんな。そんな声を出すな。
そう言いたい衝動に駆られたが、代わりに別の言葉をかけることにした。
「このばかちん!」
コツン、と頭にチョップを繰り出す。
「え?」
「何を今更なことを言ってるんだ。危険なことぐらい最初から覚悟してる。そもそもティオがあのとき魔獣に襲われてた俺を助けてくれたから今生きてられるんだ!」
そこで一呼吸置き、まだきょとんとしているティオの頭をなでる。
「これでもものすごーく感謝してるんだ。短い間だけど、十分良い奴だってこともわかったし。ああもう何が言いたいかっていうと、元の世界に戻るまで、いや戻ったとしてもずっと俺はティオの相棒だ! だから、心配すんな!」
言った。言い切ったぞ。
勢いにまかせてぶちまけたが、なんかものすごく図々しくて恥ずかしくて臭いことを言った気がする。
気まずくなってそっぽを向くと、後ろからクスクスと笑い声がする。
「お、おい、笑うなよ、俺だって恥ずかしいんだぞ」
「ご、ごめん、だって、あんなに、顔を真っ赤にして、熱弁、するんだもの」
笑いすぎて涙まででてやがる。
ひとしきり笑い転げた後、まだ笑いの表情が残っているティオはこう言った。
「私もソーマと同じ思いよ。だから、これからもよろしく頼むわ、まだちょっと頼りない相棒さん」
「頼りないは余計だろ! 否定しきれないけど! それに、俺が元の世界に戻る、っていう目的も加わったんだし、負い目に感じる必要は全くないんだからな」
「わかってるわよ。……私も感謝してるわ、ソーマ」
あー出ましたふざけた雰囲気からのこの笑顔。これに弱いんだよ。いつもはいたずらっ子のように笑うのに、こういう時だけそんな慈母のような笑顔して。
「はい、この話おしまい! 旅の目的も定まったことだし一件落着! 早く宿に入って寝ようぜ。明日は稽古つけてくれるんだろ?」
「ええ、ビシビシ鍛えてあげるから覚悟しておくように! あ、でも寝る前にトランプしない?」
「お、いいねぇ。言っておくが俺は強いぞ? 異世界だろうと関係なく運の神様を味方につけてしんぜよう」
「望むところよ。勝負は敵が強いほど燃えるってものだし!」
とりあえず、ティオが元気になってよかった。威勢のいい、自信にあふれた表情の方がよく似合うからな。
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