第11話 四月上旬:入学式Ⅲ

 優の両手が深愛の胸の双丘に触れる。

 深愛がびくっと震えた。

 

 優は深愛の胸を覆うように両手の指を曲げる。

(大きい……)

 深愛の胸は予想以上に大きく、優の手に納まらない。

 優は深愛の胸の大きさを味わうかのように膨らみに沿って両手を這わせる。

 深愛が小さく呻いた。

 (柔らかい……)

 ブラウスとブラジャーの上から触っているのに、深愛の胸は想像以上に柔らかかった。


 はあ、はあ、と無意識のうちに優の呼吸が大きくなる。

 深愛の胸の形にそって両手でなでながら、柔らかい胸を何度も揉む。

 ちょっと触るだけだったのに、いつのまにか優は深愛の胸を揉みしだいていた。

「ゆ、優君、もう終わり……」

 深愛が悩ましそうな声を出す。深愛は両手で優の腕を掴み抵抗する。

(いやだ)

 しかし、優は深愛の両手を振り払うようにして深愛を押し倒す。

 深愛の短い悲鳴が優の耳朶を打つ。しかし、優は無視して深愛に覆いかぶさり激しく胸を揉む。

「乱暴しないで……」

 深愛が体をよじって逃げようとする。深愛の抵抗を防ごうと動いた優の肩がテーブルに当る。テーブルが激しく揺れる。乗っていたカップが転がり、中のコーヒがこぼれる。こぼれたコーヒが盛大に優の肩にかかる。

「熱っ!」

コーヒの熱で優は我に返る。


 眼下には着衣が乱れた深愛がいる。深愛は切ない顔で優を見ている。

「あ、あ……」

 優は慌てて深愛から離れる。

「ご、ごめん。僕…… 酷いことをして……」

 優は床に正座して深愛に頭を下げる。そのままずっと下げている。罪悪感と、恥ずかしさと、自己嫌悪で頭を上げられない。


 衣擦れの音が聞こえる。深愛が乱れた衣服を整えているのだ。

(なんてことをしてしまったんだ……)

 深愛の胸を触った途端、理性が地平線の彼方にぶっ飛んでしまった。そして、本能のままに行動してしまった。


(僕は、人間のクズだ……)

 優の全身に後悔が幾重にものしかかる。


「優君の、エッチ」

 深愛の明るい声が聞こえた。優は恐る恐る顔を上げる。着衣を正した深愛が微笑み、優を見ている。

「暴れん坊なんだから」

 深愛はスカートのポケットからハンカチを取り出し、優の頬や肩にかかったコーヒを拭く。

「深愛姉、ごめん」

「ほんとだよ。もう、お姉さんびっくりしちゃったよ」

 深愛が唇をとがらせておどける。さっきのことは何も気にしていないといった仕草だ。それが自責の念に駆られている優に、気まずい思いをさせないための深愛の気遣いだとわかった。


「ごめん…… 本当にごめん……」

「もういいよ。気にしてないから」

「……ありがとう」

 優はやっと罪悪感から解放された気がした。


 その後、深愛は休みの日のデートで行くところについて、楽しそうに語った。本当に楽しみにしていることが分かる。

 来週の土曜日は部活の新人歓迎会で、その日はデートを取りやめたいのだが、胸を揉みまくったことが後ろめたくて優は何も言えなかった。

 そして、深愛に言われるがまま、来週の土曜日は映画に行くことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る