小さき男の救世譚

会木 翔

第1話 少年に起きた悲劇

 意識をそっと鎮めるだけで何時でもあの光景を思い出す。


 全てが炎に包まれるなか、何もできずただその光景を見ていた。

 今さっきまで自分が当たり前の様に暮らしていた村やそこに住んでいた人々が全て燃えている。


 悪い夢かと思ったが肌に刺さる熱気が、今この状況を現実だと強く訴えかけてくる。


 誰の声も聞こえない。聞こえてくるのは炎が轟々と燃え盛る音だけ。

 何とか頭を動かす。

 すると自分の前で誰かが倒れているのが分かった。


「……母さん?」


 見間違うはずがない。そこにいたのは自分の母親だ。

 まるで眠っているかの様な安らかな顔で、地面に横になって倒れている。


「母さん。起きてよ母さん」


 いくら呼んでも返事は返ってこない。

 理由は分かる。

 母さんも他の村の人達も皆、死んでしまったのだ。

その事実をだんだんと理解していくにつれて、最初こそ悲しく思ったが不思議と今はそうでもない。


ただ自分も皆の後を追うのを待つだけだと思ったからだ。


「お前は死を待っているのか?」


遠のく意識の中ではっきりと声が聞こえた。


「だってもう生きていても辛いだけじゃないか。皆死んで、俺だけがまだ生きて、これから先どうするんだよ」


 そう言い声に答えると。


「お前の命はお前の母が守ったものだ。託されたものは簡単に捨てるな。それに生きていく理由はこれから先、私と見つければ良い」


 声はそう言う。

 生きていく理由は何か。

 それを考えると脳裏にはある人物が思い浮かぶ。

 唯一繋がりである彼女ともう一度会いたい。

 そう強く思いながらも、意識は徐々に薄れていった。

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小さき男の救世譚 会木 翔 @aikikakeru

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