さあ、夢の話をしよう。
睦永 猫乃
第一夜『監獄鬼処』
夕暮れ過ぎに家の外を出歩くのは危ない。もしかしたら、『監獄鬼処』へつれていかれてしまうかもしれないから。
母からはよくそう言われていたのに、私はその忠告を聞かなかった。
夕方過ぎにも、町を歩く人はたくさんいる。あれは行き掛かりに事故に遇うようなものだ。
外を歩いたら誰もが捕まるわけではないし、実際には事故よりももっと低い確率的なモノで、まさか私に、中るわけがないじゃないか。
……そう思っていた。その日までは。
でも、いつもの女友だちと遊びに行こうと夕まぐれに家を出た矢先に、私はどうやら、その『事故』にであってしまったらしかった。
武装した集団に囲まれ、私は成す術なく気を失う。
そして気付くと、荒廃した町に押し込められている。
ああ、テレビの放送で良く見る。ここが監獄鬼処か。と、私は思った。
一瞬で置かれた状況を飲み、諦めと絶望の渦に巻き込まれる私。
しっている。ここは隔絶された空間で、外には出られない。
通りを歩けば、町並みは荒れ、ごみやがらくたが散乱し、家屋は無事なものの方が少ない。そうして、あちこちに人の死体がごろごろしている。
ここは最近になって世間に知られるようになった、謎の組織のテリトリーである。その組織が毎晩、特定のテレビ局の電波をジャックして放送する、世にも恐ろしいゲームの為に在る場所なのだ。
ルールはとても単純。
組織の運営は、日暮れと共にまず、いったんそのテレビ局の電波を乗っ取り、CMをやるくらいの時間を取って『問題』を出す。
それは推論クイズだったり、謎かけだったり、数学パズルだったり、ジャンルは様々だったけど、出される問題はどれも凡人には簡単には解けないような難解なモノばかり。出題が終わると、尺の最後には『本日の指定エリアはA列の12番です』とか『W列の9番です』といった区画が提示される。
ちなみに指定エリアが表示されたその瞬間から、その区画から他区画への脱出、または他区画からの侵入は不可になる。出入りを試みれば、境界線に設置された殺戮トラップによってその人間は死ぬ。
そして運悪くエリア内にいてしまった者は、誰でも良いから制限時間終了までに、ネット経由でこのクイズの正答を示さなきゃならない。
解答の受付終了時刻は夜の十時。チャンスは毎日一回のみ。
誰かが答えたその解答が不正解なら、その瞬間から指定エリア内に掃討部隊が雪崩れ込み、日の出までずっとエリア内にいる人間を殺していく。時間内に解答が得られない場合も同じ。
見境はない。みつければ片っ端から、銃器やナイフで血祭りだ。
また、解答が得られないまま時間を経過させていく場合も、一時間ごとに運営側から、街並み全体に対地ミサイルの掃射がなされる。中ればただじゃ済まされない。
そしてその、掃討や掃射等で人が死ぬ様子を、運営が番組として、テレビで流すのだ。
まあ、死体がごろごろしてるのはそういうわけ。
動かない人形は要らないから、私はその補充の一人として連れてこられてしまった。
だが、どうしてこんなコトをするのか分からないし、ルールだって理不尽過ぎる。
そして拐われて三日くらいの間、私はうろうろと町中をさ迷い、テレビで見ていたルールが全部嘘でないことを確かめてしまう。
どうして私がこんな目に……。
もちろんこの殺人ゲームは社会問題となっていたし、警察も血眼になって捜査しているのに、依然として尻尾どころか、尻尾の毛すら掴めない有り様でいる。
ここから出られる希望はない。
潜伏していた空き家の屋根裏部屋で、私は今度こそ希望を失った。
……と、その時、消えていたはずのブラウン管テレビがブーンと音をたて、勝手に電源がつく。
クイズが始まったのだ。今回の問題は推論クイズだったが、やはりむずかしいというか意味すらよくわからない。
そして指定された区画は……――運悪く、私が今まさにいるこの場所だった。
震え上がる私。無理だ。私には解けない。なら他の、このエリアにいる誰かに賭けるしかない。
……しかし時間がたつにつれ、時間ごとに行われる対地ミサイル掃射は、一向に止む気配を見せない。どうやら今回も、誰も答えられないらしい。
もうムリだ。後はもう、掃討部隊の網の目を運良く逃れて、日の出まで無事生き残れることを神様に願うしか……。
そう思って、ぼろぼろの二段ベッドの上段に潜り込んで私は怯える。
あと三十分で夜十時になる。運悪く見つかって殺されてしまったら、その時はもう、そういう運命だった思うしかないんだ……。
と、そう、考えていたら目が覚めた。
わずかに夢とうつつをさ迷ったが、割合早く夢だと気づき、私はすぐに『あ、夢だ! よかった夢で……!』と胸を撫で下ろした。
すごーく、どっかの漫画やら小説のネタにできそうだなと、思う次第。
※2016年3月19日にみた夢
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