火道を渡りて宙を視る
さわだ
帰還
帰還
僕は16歳で宇宙へと舞い上がった。
「偉大な祖国」と呼ばれた国に生まれた影響で、僕は宇宙飛行士になった。
この国には偉大な指導者、歴史を作り出す者という意味の「筆記長」という人物の下、誰もが平等に暮らしていた。
平等と言う言葉に色々な解釈があることを知ったのは国が崩壊した後だった。
チャンスが等しく与えられている状態が平等とする考え方と、誰もが同じ命令を受け取る状態を平等という考え。
僕の国は指導者と人民で構成されていて、凄くシンプルだった。そうしなければ少ない資源を食潰し合ってしまうから、中世の様な単純な社会を構成していた。 だから、例えば宇宙飛行士になれるのは僕のように幸か不幸か偶々選ばれた人間だけだった。どんなに星の世界への熱意を持っていても、その運を掴まなければ 宇宙には行けない。
宇宙飛行士になれるチャンスが平等に与えられている国があるという。
その国では宇宙飛行士は試験で選ばれる。何度も試験をして、気の遠くなるような時間を掛けて最高の人物を選ぶ。
僕はその国に行ったことはないが、さぞ裕福な国なのだろう。
僕の国では違う。
宇宙飛行士は宇宙飛行士を必要とする「筆記長」が命令して生まれる。
彼が宇宙飛行士を欲しいと言えば、その日に宇宙飛行士が誕生する。
「偉大な祖国」の歴史を作り出す「筆記長」がその歴史に「宇宙飛行士誕生」と書けば、僕らの国には宇宙飛行士が生まれる。
誰がなったかのか? どういう経緯で? などの情報は「筆記長」が必要としなければ書かれることは無い。
だから僕が宇宙飛行士になった経緯は分からない。
「筆記長」がその辺の「歴史」を書かなかったからだ。
書かなかったのか、書く必要がなかったのか、書いては不味かったのかは分からない。
ただ僕は「偉大な祖国」が生んだ「偉大な指導者」によって推進された「宇宙開発計画」により必要とされた「宇宙飛行士」に「宇宙委員会」から選ばれた。
通っていた国民学校での成績と、簡単な心理テスト。そして「偉大な祖国」での宇宙開発の総責任者であるロマン・ヤシン宇宙委員長の面接を経て僕は宇宙飛行士に抜擢された。
なぜ僕が選ばれたかは色々と理由がある。
けどロマン・ヤシン委員長に言わせれば理由は一つ。彼は面接の最後でこう言った。
「君は私の言うことを聞けるか?」
僕がハイと答えると彼は嬉しそうに、熊のような大きな手で僕の腕を掴むと、手のひらに小さなバッチをくれた。
五芒星の周りを回る楕円軌道が描かれた絵、子どもながらに子どもっぽいと思ったが、それが宇宙への通行札だった。
ヤシン委員長の言うことを聞いていたら、僕はあっという間に宇宙飛行士になっていた。
今考えれば当たり前だった。
彼に必要なのは部品の様に言うことを聞く人間だった。
重い宇宙船を持ち上げるロケットエンジン、正確に軌道に打ち上げるための計算機。沢山の機械を束ねたもの、それがロケットで僕も例外ではない。
ヤシン委員長は素直に言うことを聞くものが好きだった。
重くても確実に動くエンジンとかが大好きで、あまり人付き会いは得意ではなかった。
普通、僕らの国で委員長と名が付けば「偉大な祖国」が与えてくれた「権限」で普段食べられない肉を口にしたり、暖かい服を家族に配ったりする。
つまり人より豊かな暮らしができるのに、彼はそれをしなかった。
たぶんめんどくさかったのだろう、そんな事をする時間が無かった。ヤシン委員長は体は大きいが、若い時に病気に掛かり、今でも度々入院していた。
生きている時間が人より限られていると自覚しているようで、限られた時間全てを使って宇宙への挑戦をしていた。
そんな怨念のような力でヤシン委員長はロケットを作り上げて、僕たち「言うことを聞く」少年達を宇宙へと送り出していた。
人類初の宇宙飛行士「セルゲイ・ラーニン」に続いて僕「トマス・クリャビヤ」は二番目の宇宙飛行士。
二番目だから世界初の宇宙飛行士じゃなく、只の宇宙飛行士。お陰でセルゲイのように世界中を親善大使として飛び回る必要がなかった。
彼が飛行機で世界中に「偉大な祖国」の科学的進歩を知らせるために働いていたことは知っていた。僕ら少年宇宙飛行士が集められた「コスモドロード」に彼が居たのは最初の打ち上げの時だけだったからだ。
ヤシン委員長にセルゲイは何処に行ったのと聞くと「宣伝局の人間が彼を遠いところへ連れ回している」と言った。
「宇宙よりも遠いところ?」
そう聞いた僕を見ずに、委員長はつぶやくように言った。
「遠くはないが壁の向こうだからな、行くのは宇宙より難しい」
僕には壁というものがなんだか分からなかった。
訓練で空を高く飛んでもそんなものは見えなかったからだ。
それが国境という地図上のもので、「冷戦」と呼ばれる戦争で生まれた、埋めることのできない溝だということを理解するのは僕がもう少し大人になってからだ。
そう、あの「コスモドロード(宇宙への道)」はそういった場所だった。
世界の何処よりも宇宙に近い場所、逆に言えば宇宙にしか行けない場所だった。
あの街に閉じこもった人たちが井戸に落ちた人間のようにただ一点を、星の世界を目指していた。
僕は国家の都合でたまたまその井戸に放り込まれた。
だから空を見上げた。
そこが僕の行きたい場所だとあの時は信じていた。
けどそこは僕の本当に行きたい場所じゃなかった事に僕は気がつくことができた。
前置きが長くなったけど、それじゃあ初めての宇宙から落ちるところから話を始めようか?
■出会い
僕は今高度一万メートルの上空にいる。
計測器の針がめまぐるしく回る、高度計の針だけが正確に下がる高度をなぞっていた。
針の落ち方が僕の乗っている「宇宙船」と呼ばれている直径二メートル程の球体の高度を示している。
小さな側面の覗き窓からは白い雲が横から見えた。
ついさっきまではのっぺりとした平面だった雲が立体的に見える。
体の重さと落下するスピードがこの星に帰ってきたことを実感させる。
同時に僕の命があともう少しで終わりを告げることも。
高度計の進むスピードは明らかに速すぎた。
このスピードでは僕は地上に落ちるのではなく、叩き付けられてしまう。宇宙船は丈夫にできているので問題ないだろうが、僕は卵の様に脆い。
僕に出来ることは高度計を眺めるだけではない、唯一操作できる装置、右肩上の辺りに付いている緊急手動パラシュート装置を作動させるレバーを引いた。
それでも高度計の落ちる早さは変わらない。
これで僕にできることは無くなった。
「偉大な祖国」が作り上げたロケットは完全に機能して、僕を大気圏外に放り投げて広大な祖国の大地へ無事に返してくれる筈だったがどうやら上手くいきそうもない。
「9500、9000、8500・・・・・・」
僕ら宇宙飛行士の仕事は計器を読み取ることだった。それ以外の仕事は無い。宇宙船全ての操作は管制室で行う。この宇宙船には僕の意志を伝える操縦桿の類はないのだ。
科学者が僕ら宇宙飛行士の事を「荷物」と言っていたのを思い出す。
僕は荷物だから運ばれるだけで文句は言えない。最後のレバーを引いた後は運命をこの棺に託すしかない。
「8000、7500、7000・・・・・・」
声は相変わらず計器を読み上げていた、自分でも驚くくらい僕は機械になりきっていた。地上との更新する装置も壊れているので、宇宙船の中には僕の声だけが響く。
細かい震動がシートから伝わる、大気が宇宙船を揺らしている。宇宙では何もなくて、小さな窓から見える地球との距離も再突入まで変わらないので止まっているようだった。あの時の静けさが嘘のように、今の宇宙船は激しく僕を揺さぶる。
「6500、60・・・・・・5500・・・・・・」
突入スピードが上がっている。
そこで僕はもう一度緊急レバーを引く。
反応なし。
もう一度。
反応なし。
「5000・・・・・・4000・・・・・・」
何度も何度も壊れたオモチャのように僕は一心不乱にレバーを引いた。
死にたくないと言う言葉は頭に浮かんでこなかった、ただ体が勝手に動いてレバーを一生懸命引いている。
「3000・・・・・・2000・・・・・・」
振動はさらに激しくなって、僕は舌を噛みそうになって高度計を読み上げるのを止めた。
それでも視線は高度計を外さなかった。
一瞬、落ちることしか知らない筈の針がその仕事を躊躇した。
僕が疑問に思ったと同時に振動が収まって、何か持ち上げられるような感触。
シートベルトが僕の体を強く縛り付ける。
急に制動が掛かり、息が苦しくなって咳き込んだ。
高度計は今までと違ってゆっくりと落ちていった、少し速すぎるのは分かっていたが少なくとも拉げてしまう事は無くなりそうだった。
僕の執念がパラシュートを開かせたのか、それとも激しい振動で止めていた金具が外れたのか?
原因はどうあれ僕は助かりそうだった。
頭の中で考えても、今すぐには確認できない。
もうすぐ地上に降りれば原因も分かるだろう。
次に乗るときには無事にパラシュートが開いて欲しいので、開かなかった原因が知りたかった。
そう、この時はまだ次も宇宙船に乗るつもりだった。
そして直ぐにそれが難しいことであるということを、さっきから色々教えてくれる高度計がまた知らせてくれた。
「100・・・・・・50・・・・・・」
また落下速度が上がった。宇宙船はコップから溢れる水の様に大地に落ちる。
いや雷か?
ものすごい音ともに衝撃。僕は何度も叩き付けられた後、沢山の部品の洗礼を受けた。
テーブルから落ちた卵のようにグチャグチャにはならなかったが、掻き回したスープのように僕は機械と混ざり合う。
視界が闇に消える。
何かショートする音が聞こえ、暗い船内で火花が散って見える。
僕は初めてシートベルトに手を掛けた。
ベルトを外そうと右腕を上げようとすると痛みが走った。動くことは動くが額から汗がにじみ出る。
左手を動かしたらこちらは問題なく動いた。
慣れない左腕で只でさえ外すのに時間が掛かるベルトを解くのは骨の折れる作業だった。
僕は早くこの宇宙船から出たかった。
ヤシン委員長の指示では宇宙船から勝手に出ないようにと命令されていたが、本能がそれを拒否していた。
何とかベルトを外すと僕は天井に設置された唯一の扉に手を掛ける。
外に出る扉も幾重にも施錠されているので簡単には開けられない。片腕で作業するのは大変だったが、それでも僕は殻を叩くひな鳥のように必死に体を動かす。
宇宙の真空で僕の体を守ってくれた殻。その分重く頑丈に作られているので片手で動かせるかどうか不安だったが、僕のひ弱な肉体は、その危機を感じ取っているのか最後の力を振り絞って扉を開けた。
息は自然と荒くなった。 素潜りの後のように僕は青い空に向かって肺いっぱいに空気を吸い込む。
片腕で扉をよじ登ろうとするとまた激痛が走った。今度は今までの痛みとは比べものにならない、何か複雑な痛み。
激痛は一気に体力を奪い去った。
僕は再びシートへとうずくまる。
激痛は足からだった。痛みが足から頭へとよじ登ってくるのが分かる。
よく考えればシートで大人しく救助を待っていれば良かった。
何も痛い思いを、消耗して外に出る必要はなかった。
けど、僕にはどうしても天井に大きく開いた空へと、外に出たかった。ずっとこの船内に閉じこめられていたからかもしれないが、そんな理由よりも、僕には青が何よりも欲しかった。体の全身で空を感じたかったのかもしれない。
もう一度空へと決心は早かった。
動く左腕を伸ばして天井へしがみつく。
なるべく足に負担を掛けないように腕の力だけで体を支える。また足から激痛が走る。どうやら右足が折れているようだった。
左足に力を入れてみると、頼りないが感触はあった。思い切って左足で粗末なシートを蹴ると僕の体は一日ぶりに船外へと出た。
そこで初めて僕は見知らぬ土地に居ることを知った。
目の前にはまだらな茶色と濃い緑のパッチワークのような世界が広がっていた、遠くに白い冠を被った高い山々が見える。
何処だろう?
僕が住んでいる「コスモドロード」の針葉樹の世界とはまるで違う。強い風が僕の頬を撫でる。湿った空気を感じながら僕はもう少し体を外に出そうと上体を動かす、宇宙船の外壁は黒く焼けただれていて再突入時の凄さを物語っていた。撫でるように僕は船体を這う。
何に焦っていたのか自分でも分からないが、必死に体を動かすと僕の体は球面の外壁に沿ってそのまま転がり落ちてしまった。
無様に地面に叩き付けられると共に激痛が僕の体を走った。
口に含んだ土と草を噛みしめながら僕は激痛に意識を失おうとしていた。
目の前は久方ぶりの大地、足の裏に安心を感じる。
「偉大な祖国」の大地か分からないけど、地球であることは間違いない。僕は帰ってきた。この土の固まりの上に。
暗い。
目の前は暗かったので僕は最後の力を振り絞って仰向けに倒れ込んだ。
もう、痛みなんか忘れていた。
目の前には青空が広がる。僕が知っている空よりも濃い色。
僕はこの青空の向こう側に行って、今また地球に帰ってきた。
不思議でも何でもなかった、自分の意志で宇宙船に乗り込んで、こうやって自分でまた這い出てきた。
僕は自分で望んで此処にいると思っていた。
宇宙に飛び出して、知らない土地で這いつくばっているのはそうありたいと望んだから。
「偉大な祖国」でもヤシン委員長のせいでもない、そうやって頭の中では必死でこの絶望的な状況への言い訳をしていた。
気がつくと僕は泣いていた、なぜだか分からない。
大空の下で僕は久しぶりに泣いていた。
目尻に涙が貯まるのを感じて、僕はこれ以上涙を流したくないので瞳を閉じる。
そしてそのまま気を失った。
「スピカ!」
誰かの声が僕の耳に入った。
透き通るように遠くから虚ろな僕の意識に語りかけてくる声。
僕はどうやらこの星で一人ではないらしい。
「ピナル」
どさっと荷物が置かれる音。
女の子の声だった。
そしてかけ声に答えたのは動物の声、羊だろうか?
暢気な泣き声を聞きながら、僕は眠りに落ちた。
■掃除屋
「同士モストボイ大尉」
呼び止められた女性が振り向くと、そこには白髪を蓄え、黒い縁のメガネを掛けた気むずかしそうな老人が立っていた。
「同士ヤシン」
綺麗な軍隊式の敬礼で女性が答えると、ヤシン国家委員長はすこし顔を綻ばせた。
「どうして此処へ?」
特務ビルへ白衣を着た科学者が来る事は希だった。来たとしても黒い油塗れの白衣ではなく、薬品の匂いが染みついた白衣を着て本能的な嫌悪感を抱く人物が大半で、目の前の恰幅の良い老人にはそんな匂いはしなかった。
「君を捜していた」
モストボイ大尉は表情を崩さずに敬礼を解く。髪を軍帽に納めたその顔は端正と称して間違いがない、均等が取れて知性を感じさせた。
「何か?」
「私の宇宙船をよろしく頼むよ」
「必ず此処へ持ち帰ります」
「次の宇宙計画へと続けていくのには是非必要なものだ」
自分よりも大きな男に懇願されてもモストボイ大尉は微動だにせずに、人によっては冷笑取られる笑みを浮かべた。
「同士、これは後学の為に聞いておきたいのですが、なぜ宇宙船は「偉大な祖国」ではなく、隣国の辺境の地へと降りてしまったのですか?」
「うむ、我々が相手にしている宇宙空間は「国家の敵」達よりも我々に苦難を強いる相手なのだ、しかし・・・・・・」
「通信装置の故障と報告が上がってきたのですが?」
自説を展開しようとしているヤシン委員長にモストボイ大尉が釘を刺す。品定めをするようにヤシン委員長は巨体を屈めてモストボイ大尉の目を見る。
微動だにしない視線は何事にも屈しない意志の強さを表明していた、只追随するためだけに命令を聞いていられるタイプでは無さそうだった。
「我々のロケットエンジンは完全に機能したが、それをコントロールする術を失ってしまった」
「すると全く連絡が取れない?」
「三系統ある通信装置全て」
なかなかヤシンは「壊れた」とか「故障した」とは言えなかった。「筆記長」を頂点とするミスを許容しない社会、それが「偉大な祖国」だった。
この国はではミスはミスをしないように指示を与えなかった人物に責任があり、罰せられるのだ。宇宙船の全てをコントロールしているヤシンも責任を問われてもおかしくなかった。故障を認めると政敵に自分を攻撃する口実を与えかねない。
「それではあなた方の観測結果を基に、速やかに行動しなければならない」
「モストボイ大尉?」
「同士、あなたの宇宙船は必ず奪回します。「偉大な祖国」の成果を他者に委ねるつもりはありません」
最初と同じように敬礼して、完璧な動作で踵を返すと建物の外にある飛行場へと向かった。
その顔は何処か嬉しそうだった。
まるで狩りにでも行くかのように、笑みを押し殺していた。
「大尉!?」
「直ぐに出せ!」
モストボイ大尉が小型の輸送機に飛び乗ると、飛行機は直ぐに滑走を始めた。
「国境警備隊は?」
「直ぐに動けるようです」
マーキングされた地図を渡されてモストボイは頷く。
赤く塗られた地域は宇宙船の着陸が予想された地域だが、 ハッキリ言って地図の縮尺を間違えている。
都市がペンの一押しで表されている地図に、デカデカと真ん中を赤く塗りつぶされている。
悪態を付くわけではなく、モストボイは軍帽を取って開いているベンチへ投げ捨てる。黒い艶やかな髪が肩に掛かり、何処か場違いな印象を与える。
まったく「偉大な祖国」は宇宙船を作れても、簡単な連絡を取り合う装置は作れない。宇宙船に乗っている搭乗員の生死すら確認できないのだ。
モストボイ大尉は歪(いびつ)だとは口にしない、口にした瞬間自分が消されてしまうかもしれないからだ。
あの脅えたヤシン委員長と同じに国家に尽くし、国家に監視され、国家のために生き、殺されてしまう。
その時モストボイ大尉は思い出した。
「私の宇宙船」
そうヤシン委員長は言った。
私、全ての物を国家が所有するこの国家で「私」はない筈だ。私有は重大な国家反逆罪だ。
記録には残ってないので立証は難しいが、つまりヤシンとはそう言う人間だった。国家に忠誠を誓い、自分の為にだったらなんでも犠牲にできる男。
この国には掃いて捨てるほど居る類の人間だ。
そう言えばヤシンは「宇宙船」を持ってこいと言っていた。まるで中に乗っている筈の宇宙飛行士なんかどうでも良いと言わんばかりに。
それとも中に入っている宇宙飛行士も含めて宇宙船なのだろうか?
どっちにしても歪な話だ。
そんな事を考えてモストボイ大尉は憂鬱になったわけではない。
ただ、どう動いたら一番自分に利益があるかを考えていた。
道義の通らない連中に道義など説いても意味がないのを知っていたからだ。
国の資産を使って自分の妄想を実現させるべく邁進している男達など一番道義が通らない連中だろう。そんな奴らの作り上げたロケットに乗っている男もまた道義が通らない男なのだろうか?
確か二十歳にも満たない学生を乗せている筈だった。
軍隊だってそこまで酷い事はしない。
もう少しこの世という物の理不尽さを思い知らせてから死なせてやる。
すこしモストボイ大尉は宇宙船奪回の仕事に興味が出てきた。
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