狐のユッコの大冒険

夜野うさぎ

第1話 ユッコ、召喚《しょうかん》される

 わたしはキツネのユッコ。


 キツネとはいっても、普通ふつうのキツネじゃないよ。

 九尾きゅうびきつねと呼ばれる種族しゅぞく

 とはいっても、私一人しかいないのよね。


 森のふかいところにずっと住んでいて、近くの町や村の人々からかみさまのようにあがめられているわ。


 もう1万年まんねん以上いじょうむかしに、この世界せかい魔力まりょくばれる不思議ふしぎなエネルギーがあつまるところから生まれたの。

 ……だからお父さんとかお母さんっていないんだけれど、言ってみればまわりの自然しぜんとか世界そのものが私のおやということになるわ。

 おさないころは、この森に住む動物どうぶつたちが面倒めんどうを見たりしてくれたしね。


 こうして魔力まりょくから生まれた私は、寿命じゅみょうもないしとしることもない。

 おまけに魔法まほうとか、ごく自然しぜん使つかえるし、はっきりいってケンカだったら世界で一番いちばんつよいわ。

 二番目に強いのは、南の山にいる古代竜エイシェント・ドラゴンかしらね。


 とはいえ、こないだ、その古代竜もとうとう寿命じゅみょうむかえてくなったから、今では私がこの世界で一番の年長ねんちょうとなってしまった。


 古代竜エイシェント・ドラゴンは、私と昔話むかしばなしができる唯一ゆいいつのお友だちだったから、亡くなったといたときはずいぶんとんだりもしたけれどね。


 九尾きゅうびきつねってね。9つのっぽがあるんだけれど、普段ふだんは森の仲間なかまや、たまにやってくる人間にんげんをおどろかさないように1本にしているわ。


 今は、私のそだて上げた銀狼ぎんろうのフェンに森の管理かんりまかせ、悠々自適ゆうゆうじてきらしているってわけ。


 「なあ、ユッコ。今日の森はなんかおかしくねえか?」


 私の目の前には、もう大きくなった銀狼のフェンがいる。


 「う~ん。……そう言われれば、どことなくかない気がするかしら。でも、アンタは森の主なんだから、どんっとしていればいいのよ?」


 「いや、そうじゃなくてさ……。ユッコが心配しんぱいできたんだぜ? こう、胸騒むなさわぎがするっていうか」


 「ぷっ。今日はやりでもふるんじゃないかしら? 私の心配なんて。ないない。大丈夫よ」


 思わずした私だったが、フェンはじれったそうなかおで私を見た。

 ……あのう。こう見えて私はあなたのそだてのおやなんですけど。


 「ならいいけどさ。……じゃ、俺は見回みまわりに行ってくる」

 そういって、フェンはいて森の中へともどっていこうとした。


 その時、私の足下あしもと地面じめん中心ちゅうしんに光の魔方陣まほうじんかび上がった。

 時間じかんまったような感覚かんかくをおぼえ、体がきつる。


 魔方陣まほうじんからのぼる光のこうに、あわててさけびながらろうとしているフェンの姿すがたが見える。


 ええっとこれって……。何かの魔方陣みたいね? 転移てんい魔方陣まほうじんかしら?


 光がどんどんと強くなり、目がくらんでいく。私はいそいでフェンに、

 「私のことは心配しんぱいしないで、アンタはちゃんとしなさい! みんなをたのむわよ!」

さけんだ。


 その途端とたんに光につつまれて、前後左右ぜんごさゆう感覚かんかくがなくなっていく――。


――――。

 フェンは突然とつぜんあらわれた魔方陣まほうじんの光がかべとなり、ユッコにちかづくことはできなかった。

 「ユッコ!」とあせりをふくんだ声でさけびながら、がしんっがしんっと体当たいあたりをかえす。

 魔力まりょくを口にためてこおり魔力弾まりょくだんちだすが、魔方陣の光をやぶることはできなかった。


 氷の魔力弾をはなったフェンの目のまえで、魔方陣の光がえていく。

 そして、そこにユッコの姿はなかった。


 フェンはくやしそうに遠吠とおぼえをあげた。

 「うおおおお~~ん」


 森に住む動物どうぶつたちはフェンのかなしげな遠吠とおぼえになにきたのだろうかとかお見合みあわせていたが、やがて魔方陣によってユッコがどこかに消えたことを伝え聞いて、おどろき、そしてさびしがるのだった。


――――。

 わずかな浮遊感ふゆうかんつつまれ、次の瞬間しゅんかん、私は見知みしらぬいえにわ出現しゅつげんしていた。


 空中くうちゅうからすっと芝生しばふうえつと、目の前には12才くらいのおとこの子とおんなの子がいる。


 二人とも、かわふくにフードの付いたコートをていて、金色きんいろかみあおをしている。

 一瞬いっしゅん兄弟きょうだいかなと思ったけれど、顔つきからしてちがうようだ。


 男の子がつまらなさそうに、

 「ださっ! たんなるキツネじゃん! お前の召喚魔法しょうかんまほうやくたねーの」

と女の子にかって言った。


 内心ないしんでむかっとしたけれど、女の子がってきて、しゃがんで私をきかかえた。


 「かわいい! ね。ヒロユキの言うことなんか無視むししようね!」


 それをいた男の子が、ちっと舌打したうちして、

 「なんだよ。コハルのくせになまいき!」

と口をとがらせた。


 ふむふむ。どうやら男の子がヒロユキ、女の子がコハルという名前なまえのようね。

 ……状況じょうきょうがわからないから、キツネのふりをしておいた方がよさそう。


 そう思いながら、女の子のかおをぺろっとなめると、女の子はきゃっと言いながら、うれしそうに私のあたまをなでた。


 そのとき、家の方からひくいヒゲもじゃのおっさんが出てきて、

 「お~い。なにやっとんじゃ?」

とやってきた。


 身長しんちょう小学校しょうがっこう4年生くらいだというのに、マッチョのおやじ。ドワーフだ。

 ……とすると、ここは鉱山こうざんちかくにあるのかな?


 だってドワーフって、鉄鉱石てっこうせきにくべて精錬せいれんしててつにしたり、その鉄をつかってけんやりをつくったりする種族しゅぞくなのよ。


 ドワーフのおっさんはのしのしと歩いてきて、コハルのそばの私を見ると、

 「ああ~ん? なんじゃこのキツネは……」

と自分のヒゲをなでながらコハルにはなしかけた。

 すると、そばのヒロユキが、

 「コハルが召喚しょうかんしたんだよ。ぷっ。かぜ精霊せいれいシルフをぶなんておおきいことっていたのにさ」

小馬鹿こばかにしたように言いはなつと、コハルが私をかかえて、

 「いいのよ。だって、かわいいは正義せいぎ! だもんね」

と言う。


 ドワーフのおっさんは、

 「なんだと? 召喚魔法しょうかんまほうだと? おれらのいないところでなにあぶないことやってんだ! このバカ野郎やろうどもが!」

といきなりにぎりこぶしをかためてヒロユキとコハルに拳骨げんこつおととした。

 うわぁ。いたそう。


 ヒロユキとコハルは二人して頭をおさえてうづくまった。

 ドワーフはふんっとはならすと、

 「そんなことより、さっさとうちにはいれ。……そのキツネも一緒いっしょにな」

うでんで二人をにらんだ。


 ヒロユキが頭をさすりながら涙目なみだめで、

 「いってぇな。わるかったよ。ゴンドー」

と立ち上がり、コハルの手をっぱって立たせると、ゴンドーと呼んだドワーフのあとをついていった。


 はあ。しょうがない。私もついていこう。

 まだ未熟みじゅく召喚魔法しょうかんまほうだったので、私に隷属れいぞく効果こうかはないようだけど、ここがどこかわからないし状況じょうきょうがわからないわ。


 私はためいきを一つつくと、コハルのあとについて歩いて行った。

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