X5 明日って何?

「…………ふわぁーぁ、教頭先生の話、長かったねぇ。寝ちゃいそうだったよぉ」

「え? 北星さん寝てたよ」

「まじ!? 気付かなかったよ」

「あはは」


 無事入学式も終わり、私たちのクラスは教室へ戻る前に構内施設の案内を受けていた。

 そこで気になったのは、運動施設の充実度だ。とにかく凄い。

 どこの大型スポーツジムだよってくらい機材が立ち並び、プールも開閉式。受験のときは余裕がなかったせいでよく見れなかった校庭とかもよく整備されていた。

 校舎から一番遠い位置にある建物は部室棟で、中は見てないけどそこにも色々設備があるらしい。

 あと最後に立ち寄った購買も大きく、まだ授業が始まっていないせいか閉まっている隣接された学食も広かった。

 食券を買って並ぶのかと興味深く見ていたら、人気メニューの写真が貼ってあった。

 育ち盛り向けなせいか、なかなかボリュームのある料理が多い。どれもおいしそうだけど……。



「ここが最後かぁ。瀬奈ちゃんはなにか気になったものあった?」

「えーっと、カニクリームコロッケサンドかな」

「えっ」

「えっ?」


 一瞬呆気にとられた顔をした北星さんは直後に大爆笑。どうも施設のことを聞いていたらしく、私は恥ずかしくて顔を真っ赤にさせた。このままでは食いしん坊キャラになってしまう。

 だって好きなんだもん、カニクリームコロッケ……。



「ごめんっ! 本当にごめんね! だってかわいかったからつい」

「うぅ~~」


 教室に戻った私は恥ずかしさを隠すようにふてくされていた。

 何に対しての質問かちゃんと言わない北星さんだって悪いんだ。なのに私からは笑えない理不尽さが納得できない。


「ねっ、瀬奈ちゃん電車通学だったよね? 駅前にさ、良さげな喫茶店見つけたんだよ! 帰りにおごるから!」


 北星さんは私に向かって拝むように手を合わせている。

 私は別に怒っているわけじゃないし、こんなことで友達になってくれる人を失いたくない。ただ気恥ずかしいだけだ。

 でもそろそろなんとかしないと本当に嫌われてしまう。私は少し勇気を出した。


「……パフェある?」

「え? パフェ? うーん、あるかなぁ……。あっ、なくても私が頼むよ! 安心して!」


 必死な姿の北星さんに、思わず吹き出してしまった。

 私がなんで笑ったのかわからず、少し挙動不審になった北星さんは、とりあえず笑う。2人で一緒に笑った。





「──明日楽しみだね!」


 学校からの帰り、駅前の喫茶店で2人してパフェをつついていたとき、北星さんが唐突にそんなことを言い出した。


「明日? なにかあるの?」


 帰る前のHR《ホームルーム》で、明日の1時限目と2時限目は自由時間と言っていた。なんで突然そんなことになっているのか理解できなかったけど、北星さんはなにか知っていそうな雰囲気。


「そっか、瀬奈ちゃんは学校の情報知らないんだっけ。明日は部活紹介があるんだよ!」

「へぇー」


 部活紹介が入学式の翌日にあるってどうなんだろう。だけど自由時間っていうのは何故?

 部活に興味のない生徒は見に行かなくていいとかなのかな。


「そういえば部活で学校選んだんだっけ。どこ入りたいの?」

「えっとね、海洋研究部だよ」

「うん? 知らないなぁ。ひょっとして文化系?」


 私が「そうだよ」と答えたら北星さんが少し悩むような表情をした。


「どうしたの?」

「え? あ、うん、ごめん。文化系でうちの学校を選ぶのって珍しいんじゃないかなーって思って」

「そうなんだ?」

「うん。だってうちの学校、文化系部活って4つか5つしかなかったと思うし」

「へっ?」


「だって文化系って地味じゃん? 校風的にないかなーって」


 地味とかそんなで文系が廃れるの? しかも校風ってなに?


 やばい、なんか私の思っていた高校生活と全然違いそうだ。マンガは所詮マンガの世界で、実際の高校ってこんなだったのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る