X3 脱出!

 囲まれていた私は涙目になり、縮こまっていることしかできない。

 怖い! これが日本の高校……。怖い!


「ふひゃう!?」


 急に肩をぽんと叩かれ、おかしな声を出してしまった。

 恐る恐る振り向くと、そこには女の人……、違う、綺麗な男の人がいた。

 決してオカマとかそういうのではなく、ただただ美しい、女性的な顔の人だ。

 あいつより背が高い──多分180以上あるその人は、少しかがんで私へ爽やかな笑顔を向けている。


「ああ、ごめん。驚かせちゃったね。ごめんね、コイツ横暴っていうか自分勝手で……。あ、僕は3年の日進だよ」

「あのっ、い、1年の藤岡です……」


 日進先輩か……。とてもやさしそうだし美形だし、思わず赤面してしまった。

 いやきっとこれは吊り橋効果だ。落ち着こう、落ち着こう。


 ……やっぱ綺麗な人だ。なんか女としてくやしい気になる。


「おい北峰」


 そして隣にいるのは今度こそ女性だ。濡れたようなっていうのかな、艶やかな黒髪で、透き通るようは白い肌をした儚げな美人さんだ。


「藤岡さんね。私は2年の智恵文。宜しくね」

「あっ、ハイ! 宜しくお願いしますっ」


 ついつい返事をしてしまった。


 さっきまで怯えてたのに、やさしそうな日進先輩と美しい智恵文先輩と知り合えたことで、心の中でラッキーと思っている辺り我ながら現金だと思う。


「北峰、聞いているのか?」


 そしてもう1人、見るからに体育会系、タンクトップの似合いそうなイカツイ人だ。

 だけど顔がごついわけじゃない。なんだろう、熱血系イケメン? そんな感じ。


「おう、俺は九度山、2年だ」

「藤岡です。宜しくお願いします」


 一体私はさっきから何を宜しくお願いしているのかわからなくなったが、とりあえず先輩だし、今後お世話になるかもしれないから挨拶は大事だ。


「……おい、藤岡」

「は、はいっ、なんでしょうか」

「お前、北峰竜二の娘じゃなかったのか?」


 ああ、さっきから私のことを呼んでたのか。



「北峰竜二は雑誌とかに載せるときのペンネーム? みたいなものなんで私は北峰じゃありませんよ」

「なるほど」


 理解してくれたらもうその名前で呼ばないようにして欲しい。自分でも混乱するから。


「えっ、なに? この子、あの北峰竜二さんの娘さんなの!?」

「へえ、あの北峰さんの……」


 あのってなんだろう。お父さんたち、そんなにメジャーじゃないよ。

 エクストリームなんちゃらっていうのがよくわからないけど、潜ってないならお父さんとは関係ないと思う。

 ひょっとしたら他の誰かと勘違いされているのかもしれない。

 この世界カメラマン業界には6人の北峰竜二がいる。

 といっても勝手に他人の名を語っているわけじゃなく、たまたま同姓同名というわけでもない。お父さんだって本名じゃないし。

 


「それで、突然集合かけてどうしたの?」

「ああ。こいつをエクストリーム部へ入れようと思ってな」

「へっ?」


 今の一言で私の思考は一瞬止まってしまった。


「英一君。いくらなんでもそれはどうかしら……」

「大丈夫だ。前もって話を聞いている。さすが北峰氏のご息女といったところだ」


 どんなところだよ! そんなところ全然な……、なかったよ。多分。


「でも実際に見たわけじゃないんだろ?」

「だが彼女の潜水時間はログ読みで250だそうだ。それで下手ということはあるまい」

「お、おい。入ったばかりだから15だろ? それで250って……」

「これがどういうことかわかるよな九度山。つまり彼女は生粋のエクストリーマーだということだ」


 勝手に話進められてる! 私そんなのじゃないから!



「さっきから顔が苛立っているぞ」

「そ、それは……、あ、あなたがあんな驚かせ方するからです!」

「ん? 朝食の下りか? そんなものキミが勝手に驚いていただけではないか?」

「うっ」


 た、確かに私が勝手に驚いただけかもしれないけどさ、あんなに目立つ場所でやることないじゃない! 普通だったら通報されてるから!

 なんかもうこの場にいたくない。早いところ逃げないと。


「あっほら、もう他の生徒たちが登校してますので! 私はこれで失礼します!」

「お、おい!」


 私はこの場から一目散に逃げ出した。

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