6代:バルゼー帝・7代:ゲーヴィン帝およびジュリウス廃帝紀 -ボッシュル独裁体制時代-

 少年皇帝として即位したバルゼー帝は、父帝以上に実権がなく、最大貴族となったフンゴン家の当主ボッシュル侯爵が、その実力によって補弼内閣首相に就任し、独裁政権を樹立した。

 まだ28歳だったボッシュルは、リンゼル時代にはさしたる地位にも就いていなかったが、皇帝が重病となるのを見て、一か八かの賭けに出た。帝位の代替わりの混乱に乗じて貴族界のライバルを陰謀にかけて蹴落とし、即位したバルゼー帝に取り入って権力を握ったのである。それなりに才幹のある男だったのは言うまでもない。

 ボッシュル政権は以後40年も続いた。

 秘密警察を組織し、相手が皇族だろうが、貴族だろうが、平民だろうが、「分け隔てなく」監視し取り締まり弾圧した。この秘密警察の幹部は、かつてベーヌの元で陰謀に暗躍した連中の生き残りだったと言われる。

 歴史学者フォルソン伯爵は、次のように評した。

「帝国建国以来、いや、その前のエトー王国時代を含めて、はじめて、この国に真の平等社会が訪れたのだ。それも最悪の形で」

 バルゼー帝はボッシュルには逆らわなかった。

 しかし皇帝でありながら、貴族に操られているという立場に忸怩たる思いと、先祖に対する申し訳ない気持ちとが相まって心をむしばみ、現実から逃避するかの如く彼は女色にのめり込むようになった。

 皇帝の堕落はボッシュルにとっては都合がよく、彼は美女を物色しては皇帝に献上した。

 こうして心身共に衰えた皇帝は、在位27年で崩御した。42歳であったが、見た目には70歳の老人にも見えた。もっとも40代というのは体の機能としてはまだ、精力が衰える段階ではない。衰えたのは日々の女性との行為が原因によるものではなく、快楽に逃げても消すことの出来ないボッシュルへの不満と憎悪と自身への苦悩が自律神経に対して悪影響を及ぼしたという説もある。

 このような生涯であったため、バルゼー帝に見るべき治績はない。

 世の中は、ボッシュルの独裁による監視体制の結果、重苦しい雰囲気に包まれていた。

 実は、ボッシュルの行った政策は、社会一般に関する限り、おかしなところはあまりない。通常、行政遂行上の障害になるような介入を行ったことはないし、資源開発や治水対策といったことなどは、常識の範囲で行われた。賄賂などによって人材が登用されるといったこともさほど盛んになったわけではない。人事は比較的能力に沿った形で登用しており、後世、それを再評価する意見もある。

 しかし、ボッシュルは、自分の地位に及びそうな事案に関しては容赦しなかった。

 秘密警察の規模は拡大し、多数の要員が、各地に潜って貴族から市民まで監視の目を強化した。

 ちょっとでもボッシュルの政策、存在等に疑義を口に出そうものなら、たちまち報告が行われ、直ぐに警察が来て連行していってしまう。本人が喋った内容すら忘れても、秘密警察の記録にはきちんと残っていた。捕らえられたものはその多くが行方不明となって帰ってこなかった。消えてしまった人々の総数は130万人にもなると言われている。しまいには秘密警察の関係者すらお互いに密告しあって逮捕され、獄死するものが相次いだ。秘密警察が権力を握ってはボッシュルにとって都合が悪いからである。秘密警察の初代長官ビエット伯爵は汚職を理由に、平民出身の3代長官ドレバは反逆の罪を着せられて処刑され、2代長官ランズゴルト子爵はかつての部下による拷問で獄死した。ドレバを死に追いやってのし上がったのが、その部下のブリーべで、彼が4代目秘密警察長官となり、以後、ボッシュル政権末まで辣腕を振るった。

 そうやって絶対者として君臨することになったボッシュル。

 彼は、権力を握ると、様々な権利を握り、その収益を懐に入れた。歴史上、独裁者とはみな一様ではなく、権威や名誉・歴史的名声を欲しがるもの、自らの思想を広めるために権力を握るもの、利益を独占したいものなどあるが、ボッシュルは最も俗物的な、利益独占型であった。彼は権利で得た利益だけでなく、滅ぼした貴族らの領地や財宝も手にした。欲しい宝物があると、その所有者である貴族に罪を着せたとも言われている。彼は利益を親族と分かち合うことすらほとんどしなかった。

 元々大貴族の出身であるが、その莫大な財産によって、邸宅を皇宮並みに作り変え、各惑星に広大な荘園を置き、専用の宇宙船を建造し、近衛軍並みに私兵軍を拡大し、私生活を飾るための調度品を作る職人を多数抱えた。金銭と物質を満たすことが、彼の心を満たした。そのために、私兵や職人の給与までケチったというから相当なものである。

 そこまですれば、当然、人々の憎悪を買い、嫌われるわけだが、彼が権力を失わなかったのは、機を見るに敏だったからである。彼は、自分の地位に微妙な影が差す気配を感じ取ると、すぐに手を打った。彼は人材を見抜く目を持っていたので、その人事は意外なほどに適材適所であった。そのため、部下で権力を握りそうなものが出ると、別のまだ忠誠心を持っている人間を使って排除させた。敵対勢力が出来そうになると、別の人間に派閥を作らせ対抗させた。みな最初はボッシュルに引き立てられるから、忠誠心がある。その間に利用するだけ利用するのである。そしてボッシュルの「正体」に気づいた時、みな排除された。そういう意味で、ボッシュルが優れた才能の持ち主だったことは、誰も否定しない。

 バルゼー帝が崩御すると、その次男で16歳のゲーヴィン・ビョンデス・ベル=イルラン・ロード・ジャンゴン・シャスタ・アファル・ド・フンダを7代皇帝に据えた。

 彼には兄で、前帝の長男だった23歳のキース・ヘディング・ケファ・ロード・オブラビア・カラノベルデ・アルファード・ベンキス・ド・フンダがいたが、キースは有能な人物であり、ボッシュルの私物と化し、警察国家となった帝国の現状を憂いていた。

 彼は密かにボッシュルの排除を考えていたが、それが密告によってボッシュルの耳に届いたために、彼が自領オブラビアに戻っている間に、帝都で弟が即位してしまった。貴族層を支配するボッシュルに先手を打たれてしまったのだ。

 キースとゲーヴィンの兄弟の仲は悪くなかったのだが、キースは弟の即位を無効にして、自ら即位し、ボッシュルを滅ぼすしか無いと考えた。貴族らの支持も得られるだろう。そこで帝都に戻って工作をはじめたところ、これも先手を打たれて、皇帝の「謀反人討伐の勅命」によって近衛軍がキースの邸宅を包囲した。キースはかろうじて直前に側近の注進で事態を悟り、新妻と幼子を連れて密かに脱出した。家令のコマーツが時間を稼いでいる間にキースは妻の兄であるディヴィ子爵の手配で宇宙へと脱出したが、そのことを知ったボッシュルは、コマーツやディヴィら家臣から使用人の子供に到るまで、キースに連なるもの5000人余りを逮捕し、そのすべてを即日処刑。軍に専任部隊を編成させて、キースのあとを追わせた。

 キースは自分の甘さを悔やみ、ボッシュルの手際にほぞを噛んだが、資産もなく、味方もほとんどいなくなったため、討伐軍を振り切ると、やむなくディルボーン帝国へ亡命した。ディルボーンには、処刑されたディヴィ子爵の親族がおり、伝手があったのである。しかし国交のないディルボーンでは、彼は特別扱いを受けることもなく、単なる亡命希望者として扱われた。ディヴィ一族が受け入れ人として動いてくれたおかげで、亡命は認められ、強制送還といったことはなくて済んだが、ディヴィ家は、キース一家を経済支援するほど豊かではなかった。

 キースは、乗ってきた小型宇宙船を売却すると、そのお金で市民権を買い、当面必要な生活費に当て、家賃の比較的安い集合住宅の一室を借りた。もちろん、収入がなければ飢え死にしてしまう。彼は工場で働くなどして家族を養わなければならなくなった。

「自分たちが如何に特権の上にあぐらをかき、平民から収奪して、安穏として生きてきたか、今になってよくわかった」と家族に語ったと言われる。

 彼にどんな心情の変化があったのかはわからない。しかし、彼は故郷へ帰ることをあきらめ、ディルボーンの国民として生きることを決めた。彼は平民としての生涯を過ごした。一労働者から、職工長、管理職、役員と出世し、晩年には資産家となり、複数の大企業の役員なども務めたと言うから、相応の才能があったのだろうし、努力もしたのだろう。貴族の令嬢出身の妻も、内職などをして夫を支え、子供を育てた。ふたりは孫やひ孫にも恵まれ、幸せそうだったと言われる。

 一方、帝位に就いた弟のゲーヴィンは不幸だった。

 独身だった彼に、ボッシュルは自分の末娘を嫁がせ、生まれた子供を皇帝にする計画を立てた。

 嫁がせるところまではうまくいき、皇帝との間で子供も生まれた。男子だったので、ボッシュルは早速、この幼児、というか乳児を、皇帝に即位させようとした。

 乳児にはジュリウス・カエザル・アンシュノートン・キャッシュリー・ロード・フンゴニオン・カラノベルデ・ヴァンクラン・ド・フンダという、なんだか御立派な名前が付けられた。

 この子を即位させるには、ゲーヴィンを退位させなければならない。

 ボッシュルはゲーヴィンがおとなしいことから、素直に退位に応じると考えていた。応じれば、生涯年金を与えて平穏に一生を過ごさせるつもりでいた。

 ところが、ゲーヴィンは応じなかったのである。

 それどころか、

「貴様は、余をなんだと思っておるのか。皇帝をないがしろにするつもりかっ。臣の分際で、不相応だとは思わぬのかっ。下がれ、貴様なんぞに用はない。下がれ、下がれえっ」

 そう言ってボッシュルの胸ぐらを掴んで突き飛ばしたのである。

 ボッシュルはあまりのことに驚き、こけつまろびつ宮中を退出した。

 そして自邸に戻ると怒りがわき上がった。家宰相手に、

「おのれ、ゲーヴィンめ。誰のおかげで至尊の地位に就けたと思っているのか。苦労せずに生涯を過ごさせようというのに、恩知らずめが」

 などとぶちまけたという。勝手な言い分ではあるが、権力者にとってはそれが当たり前。その狭い視野の中でしか、物事の判断はしないのである。

 よって、彼は皇帝に強要して退位させることを考え、私兵を集め、宮中へと乗り込んだ。

 するとなんと、宮中でも皇帝が近衛兵をかき集めて待っていたのだ。50人ほどの兵士と皇帝がいた。

「殺せ、ボッシュルとその一派を殺せ」

 皇帝が叫んだ。それを聞いたボッシュルも思わず叫んだ。殺されると思ったのだろう。

「撃て、撃て撃てーっ」

 これが、実力ある皇帝と、単なる臣下だったら、皇帝に向かって発砲することはなかっただろう。問題は、全く傀儡の皇帝と、強大な権力を持つ臣下だったことだ。

 近衛兵は皇帝の命に従った。

 ボッシュルの私兵も主君の命に従った。

 神聖であるべき宮中で、壮絶な銃撃戦が始まった。

 ボッシュルの兵の方が多かった。近衛兵らは次々と斃され、怯えた皇帝は宮中の奥に逃げ込もうとしたが、4発のレーザーを受けて倒れた。

 ボッシュルは無傷だった。

 皇帝は重傷を負い、皇族専用病院に収容された。

 レーザー線の一つが脳の一部を焼いていた。すぐにナノマシンによる処置を施せば、ほとんど完治出来ただろう。しかし混乱によって搬送が遅れたために、手術は上手く行かず、大きな後遺症が残った。

 それでも生成脳細胞の移植と時間をかけてのリハビリを行えば回復したかもしれない。しかし、ボッシュルはそのままにさせた。自分の皇帝弑逆未遂が世間にばれることを恐れたのだ。

 宮中で起きた事件は、秘密にされ、銃撃戦で生き残った近衛兵はみな処刑され、ボッシュルの私兵までもが謀殺された。皇帝は先例にならって「不治の病」にかかってお倒れになったとされた。

 悲惨だったのは、皇帝には自覚があり知能もほぼ正常だったにもかかわらず、後遺症のために、上手く喋れず、身体を動かすこともままならなかったことだ。体中に栄養チューブだの排泄チューブだのを取り付けられ、精神的にも肉体的にも苦痛を味わいながら、それを自身ではどうすることも出来ず、死ぬことも出来ず、ただ視線を動かして、窓の外を眺める日々が続いた。厳重な管理病棟の奥に収容された皇帝への見舞いは皇后ですら容易には出来ず、皇帝は孤独の苦痛にも苛まれた。

 そのような状況で、もともと苦労知らずの皇帝の精神が耐えられるわけがない。

 やがて皇帝は苦痛の中で精神を病んでいき、気が狂っていった。

 人間の脳は不思議なものだ。

 レーザーによって焼き切られ、機能を失っていた皇帝の脳の神経ネットワークは、狂気の中で再生されていた。

 警報が鳴って看護婦が気づいた時、皇帝は死んでいた。

 全身に取り付けられていたチューブやケーブルを引きちぎり、這うようにして入口まで進み、そこで絶命していたのである。ほとんど身体を動かすことの出来なかった皇帝は、最後に自らの力で10mほどを進んだのだった。その生涯で数少ない彼の自発的行為であった。

 皇帝の死。

 実はこれは正確ではない。

 すでにこのとき、ゲーヴィンは皇帝の地位にはなかった。

 彼が病院に担ぎ込まれるまでの間に、ボッシュルによって皇帝が退位宣言書を出したように工作をしていたのである。

 言うまでもなく皇帝の地位に就いたのは、ゲーヴィンの息子で、ボッシュルの孫でもあるジュリウスだった。

 もちろん、退位と譲位は、ゲーヴィンの意志によるものではなく、その宣言書のサインも偽物であったから、それが明らかであれば、法的にはゲーヴィンは皇帝のままであり、ジュリウスは皇帝ではなかった。

 ここがこの問題のややこしいところでもあった。

 ジュリウス帝の元で終身宰相となったボッシュルにとって、ゲーヴィンの死はこれ幸いというものだった。あとは、事情を知る医者や看護婦らを抹殺し、前皇帝の葬儀を盛大に行い、新皇帝の下、覆ることのない天下を楽しんでいけばいいのだ。

「これまでの苦労も、みな報われるのだ、よきかなよきかな」

 彼はそう言った。苦労というのは、敵対する貴族共を排除し、皇帝を上手くおだてて自分の権力を維持し、国家に君臨することを意味していたらしい。これからは、その苦労すらせずに済むだろう、と言うわけだ。敵対者もおらず、幼帝ならコントロールもたやすいのだから。

 だが、彼の栄華もここまでだった。

 全く予想だにしていなかったことが、ボッシュルの身に起こったのだ。

 ゲーヴィン「前」皇帝が病院で死んだ数日後。

 宮中に参内したボッシュルの前に、一人の女性が現れた。

 ボッシュルの末娘、すなわち、ゲーヴィン帝の皇后であり、ジュリウス帝の母親である、皇太后アンナ・イリューア・ブラウンスバール・レディ・フンゴニオン・エンゲルメンティ・ド・フンダである。

 アンナは目を真っ赤に腫らしていた。そして無言で父親をにらみつけた。

「おお、娘よ、元気か」

 ボッシュルは自分の娘にそう呼びかけた。

 彼は二つの間違いを犯した。

 ひとつは、娘といえど、皇太后である。臣下として、気易く、娘よ、などと呼んでよいものではなく、それは皇帝家への不敬に当たった。

 もうひとつは、見舞うこともろくに出来なかった夫を亡くしたばかりの皇太后が、元気なわけがない、ということであった。

 ボッシュルが間違いを犯したのは、彼の思い込みがあったからだ。

 つまり、皇帝家よりも自分の方が絶対的な実力者であること。

 そして、皇帝を産ませるための政略結婚で娘を嫁がせたのだから、娘は特段皇帝を愛しているわけではないはず、と思っていたこと。

 娘を嫁がせ、子供を作らせておいて、そう思うのもおかしな話だが、ボッシュルはそう思っていたのだ。そもそも娘の感情など考慮していなかったから、皇帝に嫁がせたのである。

 だが……。

 娘アンナは、ゲーヴィン皇帝を愛していたのだ。政略結婚によって嫁いできたアンナを皇帝は不憫に思い、優しく接してくれたのである。

「御父様は、我が夫、ゲーヴィン陛下のお命を縮め、苦痛の中に置き去りにし、そのうえ、皇帝家へ嫁いだ私に対する敬意もありません」

「なにを言い出すのだ、突然」

「私は、あなたの娘として生まれたことで、陛下のお側にいることが出来ました。そのことについては感謝しております。しかし、陛下をないがしろにしたあなたの行為を許すことは出来ません」

「おい、娘よ、どうしたのだ一体」

 ボッシュルはこれでも娘の心情に気づいていなかった。

「お覚悟なさいませ、御父様」

 そう叫んで、彼女は片手を挙げた。

 その途端、柱の影や、分厚いカーテンの向こうから、大勢の近衛兵が現れたのだ。

 驚くボッシュルに向かって兵らは銃を突きつけた。

「この者を逮捕しド・オッデイ監獄へ収容するのです。罪状は度重なる不敬と弑逆未遂」

「な、なんと言うことを言うのだ。おまえたちもなにをしておる。銃を降ろせ」

 だが、兵らは皇太后の言葉に従った。彼らはゲーヴィン皇帝弑逆未遂事件の際に仲間を多数殺されている。その恨みもあった。

 ボッシュルは逮捕されて連行された。

 それを見送ったアンナは涙を流したが、それは誰のために流した涙だったか。

 ボッシュルは人間の糞尿を溜めた汚物槽の中に顔を何度も入れられて、それらが気管や食道に詰まって苦悶の末に死ぬというもっとも悲惨な方法で処刑され、皇帝暗殺未遂事件とゲーヴィン帝の崩御も公表された。そしてジュリウス帝への譲位は不法なる方法で行われたため、これは認められず、皇族、貴族らの協議の結果、あらたにバルゼー帝の上の弟(すなわちリンゼル帝の次男)であるゴーアス・ロッディア・バノン・ロード・エルベリオン・カスカル・エルベラ・ド・フンダ公爵の長男で、ゲーヴィン帝の従兄弟であるドルーディアス・ギャラル・デナン・ロード・エルベリオン・ヴァノーア・ベリスン・ド・フンダが8代皇帝として即位することが、あわせて公表されたのである。それはアンナの名で公表された。そうすることでしか、アンナの子であり、ボッシュルの孫でもあるジュリウスの立場を守る方法がなかった。アンナはそう判断したのだ。ドルーディアスと皇族のビアス大公、ド・ブイーター公爵、大貴族であるウルスラ侯爵らがアンナと協議した上で、この結論に至ったのだ。

 アンナとジュリウスは公表と共に宮中を去った。二人は侍女や執事らと共にそのまま宇宙港へ行くと、用意されていた恒星間宇宙船で帝星を去った。そのまま帝国の数少ない外交関係のあるアズデンヌ共和国へと亡命したのである。共和国とは事前に話が付いており、二人には国を去る見返りに帝国から生涯年金が送られることとなった。記録上は、ジュリウスは廃帝とだけ記され、歴代の皇帝には加えられていない。

 キースに続いて、ゲーヴィンの妻子も国外へ亡命し、皮肉な結果を伴ってボッシュル長期政権も終わった。

 なにも知らずに育ったジュリウスは、のちにこの事実を知らされ、故郷への復帰を考えたとも言われるが、結局アズデンヌで生涯を終えた。伯父のキースが亡命先でそれなりに名士となって生涯を終えたのに対し、ジュリウスは明記すべきほどの事跡を残さなかった。ただ長生きし、ジュリウスが亡くなった時、すでにフンダ皇帝は10代目の時代を迎えていた。

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