トビウオのつばさ。

@yousay

第1話

トビウオのつばさ。


登場人物


トビウオ (♀)

マグロ (♂)

カツオ (♀)

サケ (♂)

ブリ (♀)


トビウオ、板付き


トビウオ  んー、今日はいい天気だなあ。潮の流れも穏やかだ。これならきっと見つかるかも。さて、今日も頑張って探すぞー!


トビウオ、何かを探すしぐさ、マグロが上手から入ってくる。


マグロ   おーい、トビウオ!

トビウオ  あれ、マグロくん?この海域で会うなんて珍しいね!どうしたの?

マグロ   お前を探してたんだよ。サケのやつがさ、久しぶりにみんなに会いた いっていうから、俺が他のみんなに声をかけてまわっているんだ。

トビウオ  サケちゃんが?

マグロ   ああ、どうしてもみんなに会いたいんだ!って聞かなくてさ、あいつはあんまり長い距離泳げないから、代わりに俺がみんなに伝えてまわっているんだ。

トビウオ  へえ、大変だね。

マグロ   別にどうってことないさ、俺は回遊魚だぜ?泳ぎは得意中の得意だ。

トビウオ  あはは、流石だね。で、なんでまたサケちゃんは急に集まりたいなんて言い出したの?

マグロ   分からない。取りあえず三週間後に黒潮と親潮の潮目に集合だって。

トビウオ  分かった、潮目に行けばいいんだね。

マグロ   ああ。

トビウオ  にしても、みんなで集まるなんて久しぶりだね!みんな元気にしてるかな?

マグロ   ……。


トビウオ  どうしたの?

マグロ   ……、お前、あれは、見つかったのか?


トビウオ、無言で首を振る。


マグロ   ……そうか。

トビウオ  探す努力はしているんだけど、まだ見つからないんだ。

マグロ   ……あー、余計なこと聞いて悪かったな!じゃあ、俺はもう行くから!

トビウオ  ええ、もう行っちゃうの?せっかくだからもう少しゆっくりしていけばいいのに。

マグロ   んー、ゆっくりしていきたいのは山々なんだが、カツオやブリにもこのことを伝えなきゃいけないからなあ。はやく行かないと。

トビウオ  そっか、でもカツオ君とブリ君、ここから結構離れたところにいると思うけど大丈夫?

マグロ   おいおい、俺はマグロだぞ?回遊魚の体力なめんなよ!じゃあな!


 マグロ、下手にはける。


トビウオ  ……行っちゃった。


 トビウオ、上手にはけ始める。


トビウオ  みんなに会うの、久しぶりだなあ。ふふ、楽しみだなあ。


 サケが少し俯き気味下手から入ってくる。ブリはそれに続いて入ってくる。


ブリ    おい!お前、それ本当なのか!?

サケ    うん、他のみんなにも後で話すけど、ブリには先に話しておこうかなって思って。

ブリ    ……皆に会っておきたいってのは、つまりそういう事だったのか。

サケ    驚いた?

ブリ    いや、いつかはこんな日が来るんじゃないかとは思ってたよ。でも、どうしてそんな大事なことを俺に先に話したんだ?

サケ    なんでだろう?何となく、じゃだめ?

ブリ    あのなあ!

サケ    まあ、いいじゃん?そろそろみんな来るんじゃない?

ブリ    ……。

サケ    ほらほら、そんなしけた面するなって!


 カツオが上手から入ってくる。


カツオ   あ、いたいた!おーい!

サケ    あ、カツオー!久しぶりだね、元気だった?

カツオ   あたぼうよ!

ブリ    よお。

カツオ   お、イナダじゃねえか!お前いつにもまして青白い顔してるなあ!

ブリ    あのなあ、今の俺はイナダじゃなくて、ブリだ。

カツオ   おお、お前出世したのか!

ブリ    ああ、俺は出世魚だからな、ってこの前に会った時も、言った筈なんだがなぁ。

サケ    まあまあ、細かいことはいいじゃん!

ブリ    良くはない。

カツオ   で、他の二人はまだ来てないのか?

ブリ    まだ来てないぞ。

サケ    じゃあ、先にプランクトンでも食べてようか?

カツオ   そうだな!


 サケ、カツオ、動き回ってプランクトンをぱくぱくと食べる。


カツオ   あー、プランクトンうめー!

ブリ    おいおい!あいつらのこと待たないのかよ!

カツオ   こちとらはるばる遠くから来てるんだぜ?腹減ってんだよ!

ブリ    そんなの俺だって同じだ!おいお前も食べるんじゃない!

サケ    あはは、駄目か。

カツオ   しかたねえな。で、あいつらはいつ来るんだよ。

ブリ    そのうちくるだろ。

カツオ   あーもう、そのうちっていつなんだよ!ああああああああ!待てない待てないーー!

ブリ    それくらい我慢できねーのかよ!

カツオ   腹減った腹減った腹減った腹減ったああああ!

ブリ    ああもう、うるさいなあ!

サケ    あははは、カツオは昔から変わらないね!

カツオ   失礼な!俺だってちゃんと変わってるんだぜ!

ブリ    ほう?なら見せてみろよ。お前の、一体どこが変わったのかを。

カツオ   ああ、いいぜ!見てろよ。


 カツオ、泳ぎ始める。


カツオ   うおおおおおお!どうだ、見たか!これが今の俺、カツオの泳ぎよ!一昔前とは馬力が違うぜ!うおおおおおおお!


 トビウオ下手から入ってくる


トビウオ  ……何、やってるの?

サケ    あ、トビウオじゃん!やっほー!

ブリ    ああ、カツオの奴がとうとうイカれちまってさ、一人で暴れはじめちまったんだ。

カツオ   おい、そこ!ひどいこというんじゃない!

トビウオ  へえ……。

カツオ   へえ、じゃない!トビウオ!お前も何納得してるんだよ!

サケ    あはは!にしても、トビウオー、元気してた?

トビウオ  うーん、ぼちぼちかなぁ。

ブリ    そういや、マグロは?一緒じゃないのか?

トビウオ  いいや?マグロくんはまだ来てないの?


 マグロ、上手から入ってくる


マグロ   お、皆さんおそろいで。

サケ    あ、マグロ!おそいぞー!

カツオ   ホントだぞ、このやろ!


 カツオ、マグロの動きを止める。


マグロ   あ、おいコラ!俺の動きを止めるな!苦しい!あ、窒息するぅうう、う、ああ、あ、ああ

ブリ    おいカツオ、そのへんにしとけ。

カツオ   そうだな!

マグロ   げほっ、ごほごほ、……おいおい!殺す気か!

トビウオ  大丈夫?

サケ    ではでは、皆さんお揃いになりましたし、乾杯しますか!

ブリ    乾杯って、一体なにで乾杯すんだよ。

サケ    まあいいじゃん、細かいことは気にしない気にしない!では、かんぱーい!


一同乾杯をして、動き回ってオキアミをぱくぱくと食べる。


カツオ   あー、オキアミうめー!

マグロ   ああ、うまいな!流石は潮目だ!質がいいのがそろってる!

サケ    でしょー!この場をセッティングした私に感謝してちょうだいね。

ブリ    ……。

トビウオ  ブリ君?どうかしたの?

ブリ    ……いや、別に。

カツオ   お前さっきからずうっとしけた面してるよなー、ホントどうしたんだよ?

ブリ    俺はいつもこんな感じだろ?能天気でお調子者のお前とは違うんだ。一緒にしないでくれ、虫酸が走る。

カツオ   なんだと!

サケ    君たちは昔から仲悪いよねー、少しはお互い歩み寄って、溝を埋める努力でもしたらどうだい?

カツオ   こいつとの溝なんてさらさら埋めるつもりはないね。

ブリ    同感だ。むしろ溝をどんどん掘り進めていきたいぐらいだ。

マグロ   もうお前らの溝は日本海溝ぐらいには深いんじゃないか?

トビウオ  あはは、そうかもね。

サケ    喧嘩なんてしてると、せっかくのオキアミも、美味しくたべられないよ。

カツオ   それもそうだな!


各々、動き回ってオキアミをぱくぱくと食べる。


ブリ    トビウオ。

トビウオ  ん?

ブリ    お前、飛び方は、思い出せたのか?

トビウオ  ……ううん。

ブリ    そっか。

トビウオ  飛び方、飛ぶ方法は分かるんだけどね。どうやってこの翼を広げるのか、どうやったら風を切って飛ぶことが出来るのか、頭の中でイメージは出来ても、飛び立つ勇気を失くしてしまったら、トビウオは飛ぶことは出来ないんだ。

ブリ    勇気、ねぇ。

トビウオ  いったい、どこにやってしまったんだろう。探してはいるんだけど、見つからないんだ。

ブリ    それは探して見つかるものなのか?

トビウオ  ……分からない。……もしかしたらみんなに会えば見つけられると思ったんだけど。

ブリ    まあ、なんだ。気長に探してみることだな。

トビウオ  ……うん。

ブリ    ……お前が飛ぶところ、また見せてくれよ。アレ、凄く格好いいから。

カツオ   おやおや、トビウオの一本釣りかい?

ブリ    お前は一体、何を言っているんだ?

マグロ   いやあ、でもこうしてまた五人で会えるとはなあ!

トビウオ  急な話だったから少しびっくりしたけどね。

サケ    無理言ってごめんね。どうしても、みんなに会いたくてさ。本当にきてくれてありがとう。

カツオ   なんだよ、いきなり改まって。

サケ    うん、実は今日集まってもらったのには訳があって。

マグロ   訳?

サケ    うん、みんなに言いたいことがあるんだ。……みんなと会えるのは、多分、今日が最後になると思う。

トビウオ  え?最後って?

サケ    ……私、明日から、川を上るんだ。

カツオ   ……ん?川を上る?それってどういう?

ブリ    馬鹿!

マグロ   おいおい、川を上るって、お前!

トビウオ  そんな、冗談だよね?

サケ    いやあ、冗談なら良かったんだけどね。生憎そうはいかないんだよ。少し前から、私の中を流れるサケの血がさ、私を川に駆り立てようとして収まらないんだ。

トビウオ  ……サケちゃん。

サケ    いつかはさよならしなきゃいけない日が来るってみんな心の何処かでは分かってたでしょ?私たちはいつまでも一緒にいられるわけじゃない、いつか突然に別れは来る。それがたまたま、今日だっただけ!だから、ほらほら、そんな悲しい顔しないでさ!

トビウオ  でも……!


 トビウオ、言葉に詰まり上手にはける。


マグロ   あ、おい!トビウオ!

ブリ    サケ、君も無理しなくていい。

サケ    ごめん、……でも、大丈夫。覚悟は、出来てるから。ちょっとトビウオと話してくるね。

ブリ    ……ああ、分かった。

カツオ   サケ、ようやくお前の言った言葉の意味が分かったよ、なんか、ごめん。

サケ    のーぷろぶれむ!


 サケ、上手にはける。


マグロ   あいつ、本当に大丈夫かな?

ブリ    ……どうだろうね、分からない。

カツオ   俺は、きっと、大丈夫なんじゃないかと思う。

マグロ   でも、別れってのはやっぱり、辛いもんだな。


 マグロ、カツオ、ブリ、下手にはける。

 トビウオ、上手から入ってくる。


トビウオ  ……はあ。私、なんで、逃げてきちゃったんだろう?


 間。


トビウオ  ……サケちゃん。


 サケ、上手から入ってくる。


サケ    トビウオ!やっと追いついた!

トビウオ  サケちゃん?なんで?

サケ    トビウオとお話ししようと思ってさ。

トビウオ  ……。

サケ    あの、ごめんね。

トビウオ  ううん、私は大丈夫、……サケちゃん、サケちゃんは、さ、怖く、ないの?

サケ    そりゃ怖いよ!もうね、ウロコに鳥肌立つくらい。

トビウオ  じゃあ、どうして、そんなに落ち着いていられるの?

サケ    うーん、そうだなあ。

トビウオ  ……。

サケ    私には、勇気がある、サケの宿命を受けいれる勇気が。

トビウオ  ……勇気。

サケ    うん、そして、みんなとお別れする勇気も。

トビウオ  サケちゃんが自分一人でちゃんと受け入れているのに、私がこんなんじゃ、駄目だね。サケちゃん、分かったよ。私も別れを受け入れる。サケちゃん、いままで、ありがとう。

サケ    うん、それでよし!

トビウオ  ……でも、サケちゃんはすごいね。私とは全然違う。

サケ    そんなことないよ。

トビウオ  でも、私の勇気はどこにあるのかわからない。探しても探してもみつからないんだ。

サケ    なーに言ってるの!ほら、ここにあるじゃん?


サケ、トビウオに手を当てる。


トビウオ  ?

サケ    まだわからない?灯台、下暗しだよ!


トビウオ 、気付いてはっとする。


サケ    トビウオが気付かなかっただけで、勇気は、最初からトビウオの中にあったんだよ!

トビウオ  なんで、どうして気が付かなかったんだろう?

サケ    ずっと使ってなかったから、心の奥深くに潜り込んでたんじゃないかな。

トビウオ  だんだん思い出してきた!そうだ、これだよ、これだった!この感じ、今なら飛べるかもしれない!


 マグロ、カツオ、ブリ下手から入ってくる。


トビウオ  あ、みんな!

マグロ   やっぱし、心配だってもんで俺たちも様子を見に来んだけど……。

カツオ   ……もう心配なさそうだな!

ブリ    トビウオ?なんだか、嬉しそうだな。何かあったのか?

トビウオ  やっと、やっと見つけたんだ!

ブリ    ……そうか、よかったな!

サケ    よし、飛べ!今こそ飛ぶんだ!トビウオ!

マグロ   ああ、久しぶりに見せてくれよ!

カツオ   いったれ、トビウオー!

ブリ    君ならきっと飛べる!

トビウオ  みんな、ありがとう!よし、いくぞ!

サケ    せーので、頑張れー!って言うよ!せーの!!!

一同    がんばれーー!!


 トビウオ、助走をつけて飛ぶ。


一同    とんだあぁあああああああああああああ!!!



                                  終わり

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