短編小説集

四季 巡

短編「貴方」

まず、彼の話をしようか。

彼は男性である。彼と聞き、女性を思い浮かべる人はいなかろう。

別の回答をするのであれば、彼と聞き、彼を男性だと思い浮かべる。

至って、単純なことである。理由も、根拠も、証明すらも必要ない。

じゃあ、話題を変えよう。

彼はいなかった。その代りに彼女がいいた。

彼女と聞き、思い浮かべる人物像は、きっと女性だ。

背景がなんだっていい。もしかすると、スケッチブックに描かれた彼女かもしれない。

結局、何を言いたいのか問われるならば、言葉というものは、そこはかとなく興味深い。

彼と聞き、男性を思い浮かべるように。彼女ときいて、女性を思い浮かべる。

それならば、雪と聞いて何色を思い浮かべるか、太陽と聞いて何色を思い浮かべるか。

きっと、雪は白であり、太陽は赤だ。

しいて言うのであれば、皆が雪を白と呼ぶから白であって、赤と呼ばれていたら、赤なのだ。

だから、赤い雪が降っていた。と、書かれていたら雪は赤色である。

不思議な話し、全ては先入観と共にある。

太陽の絵を描けと命じられたら、赤い太陽を書くだろう。

けれど、緑色や黄色で描く人もいる。

直で見つめれば、白であるというのに。白以外の色で描く。

それは、何故であるか。きっと、自分には分からない。

なんせ、貴方じゃないのだから。


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