過去:寛容(逆), 現在:調和, 未来:清楚(逆), 援助:慈愛, 敵対:厳格, 目的:善良

 ある田舎の山奥にある鬼瓦村、そこには古来から天狗の舞(英語表記:Tungu no dance!)という踊りが伝わっていた。これは、どんな災害があってもこの踊りを踊っておけば有耶無耶のうちに「なんか天狗のせい」にしてしまえるという生活の知恵。そんな鬼瓦村の長老の家に生まれた鬼瓦くんは、天性の天狗の舞ダンサー。幼い頃から

「なんと! あの難しい"耳の穴からカナブン連射して一休みのポーズ"を5歳でこなすなんて!」

「あんなキレのいい"お月様は遠いけどー饅頭は手元にあるぞー嬉しーなーのポーズ"は見たことがない!」

などと褒めそやされてきた。それも長老との厳しい練習あってのことだったが、最近はすっかり村も平和、前みたいにまな板の上で揺れてるイソギンチャクが群れで飛んできて農作物を荒らす、などということも無くなって、次第次第にお得意の"砂場にコンセント挿して今日も地球の力で生きてるぞのポーズ"も、専らその魅力は村のおなごを口説く際の決めポーズにばっかり使われることになっていく。もちろんいい顔をしないのは長老。

「神聖な"口紅と間違えてスティック糊を塗っちゃったけど美味しいからまあ良しのポーズ"をそんなみだりに使ってはならぬ! 実際に昔から得意ではなかった"こぼした水拭くだけなのにキムワイプ使っちゃって怒られちゃったよてへっのポーズ"なぞ、それでは茶色のキムタオルではないか! 腕が落ちておる! ええいお前なぞ山にこもって最初から鍛え直せ!」

と鬼瓦くんたら裏山に放り出されちゃった。かといって裏山でも練習するわけでもなく、木の皮を剥ぐ遊びをしてたらもう夜、やら、小川に葉っぱを浮かべて見てる遊びを繰り返してたらもう夜、やらの野良ニート暮らしをしていた。それも何日か過ぎたある日、鬼瓦くんのもとに木の葉を舞い散らせながら現れたのは、若い女の様相をした天狗であった。その顔を見て鬼瓦くんは驚いた。なんとその女は、昔鬼瓦村にいた幼なじみの女そっくりだったのだ。しかしあの女は神隠しにあったと言われていたはず。

「お、お前は……」

 呟く鬼瓦くんに女天狗は囁いた。

「なんか昔から……嘘付くと鼻が伸びる体質だったから……もういっそ天狗になろうと思って……。いっぱい、嘘をつきました……。好きな人を、呪いました……」

「天狗のツラでそんなロマンチックな台詞を言うのも鬱陶しいし、あと、囁くような距離だと鼻だけ俺の顔に当たって鬱陶しい」

 なおもちょくちょく長い鼻をぺちぺち鬼瓦くんの頬に当てながら女天狗は続ける。

「ねえ……、あなたは天狗に選ばれた側なの……(ぺちぺち)。だからそう、いっそ天狗の舞自体を変えることも出来る……(ぺちぺち)。キムワイプなんかやめて、あなたが普段の生活でやってるような"マグカップは水に漬けておけば3日くらい洗わなくても使えるやのポーズ"にも出来るのよ……(ぺちぺち)」

「その"……"が多い喋り方も鬱陶しい」

 突然の再会、甘い誘い。揺れ動く鬼瓦くんだったが、そこに裏山じゅうへ響き渡るような長老の大声が届く。

「ダルマじゃ! USBダルマが農作物を荒らしに来た! USBダルマは大根が好物なのじゃ! 大根が大ピンチ打線なのじゃ! 早く、早く天狗の舞で天狗のせいにするんじゃ! 責任問題は嫌じゃあー!」

 このままでは鬼瓦家が村八分間違いなしだが、何もかもが鬱陶しいとは言え幼なじみのせいになるのは。ためらう鬼瓦くん。

「いいよ、私は(ぺちぺち)」

 笑う女天狗。

「不細工天狗なのに寛大なところを見せようとするのがいちいち鬱陶しいし何よりぺちぺちが鬱陶しい」

 そう言いながら、最初の"軽い気持ちで投げた雪玉があんなことに……のポーズ"。右足を、踏み出して。

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