鬼瓦くんのはなし

椎見瑞菜

過去:厳格, 現在:秩序(逆), 未来:幸運(逆), 援助:生命(逆), 敵対:意志(逆), 目的:信頼

 崇子ちゃんは代々家系に伝わる、右脇に乾電池を挟むと充電が出来る体質の持ち主。ただ幼少の頃はお父さんに「そうみだりに凹凸のついた筒状の物を脇に挟む物ではありません」と厳しく教えられてきたので、あんまりその特技を使うことはなかったんだ。でもそのお父さんが亡くなった時の遺産騒動で、人間大砲の弾として打ち上げられたかのような速度で大人の階段を昇るような経験をしてからは、解き放たれたかのようにその能力を使うようになったの。でも子獅子が兄弟でじゃれつく中で手加減を覚えるように、充電だって子供のうちから少しずつやらないと加減が出来る物ではないんだ。ということで崇子ちゃんが充電する物は過充電も過充電、その電池をアナログ時計に入れた日には時計の針が自意識に目覚めて「えー、僕達アナログ時計って名前で漫才させてもらってますけどね、大きい方から長針短針、そして僕が秒針って言います。ところで僕らアナログ言うてプランク時間を考えるとデジタルではないのか?」などと喋り始める始末。アニソンイントロクイズ以外に履歴書に書ける唯一の特技がこんなんじゃ、と落ち込む崇子ちゃんの元に、近所に住む幼稚園児の鬼瓦くん(最近、特撮戦隊のヒーローが爆発で吹き飛ぶシーンに言いもしれぬ性の芽生えを感じている)がやってくる。「うちで飼ってる、電子レンジの見た目と電子レンジの機能を兼ね揃えた犬ことポチの調子が悪いんだ」「電子レンジの見た目と電子レンジの機能を兼ね揃えていればそれは電子レンジだよ」「いや、犬。で、ポチの肛門に崇子さんが充電した単一の乾電池を挿入したら直る気がする!」「でも……私の充電した単一の乾電池なんか挿入した日には、ポチがオーブントースターの機能まで持ってしまいかねない……」「大丈夫! 崇子さんの電池ならきっとポチも直るよ!」「そこまで言われちゃ……合点だ!」普段から着込んでいる全身タイツの袖を勢い込んで引きちぎり、右脇で充電を始める崇子ちゃん。だがいつも以上に気張った状態ではやはりなかなか意に沿うような充電が出来ない。暴走を始める単一乾電池。「お父さん……力を貸して……南無三!」崇子ちゃんがいっそう意気込んだ瞬間、鬼瓦くんの左眼から無造作にレーザー光線が出て周囲を焼き尽くすけどそれはあんまり関係ない。辺り一帯焼け野原になったところで崇子ちゃんの充電も完了。「鬼瓦くん、できたよ。早く帰ってポチに挿入してあげて」「おおきに。それはそうとこのレーザーで地球は俺の物だ……」

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