便利な時代

友新井 三土

老人の述懐

年寄りは懐古主義に陥りがちだけれど、便利な時代にうまれてよかったなぁと思うね、俺は。

昔から人付き合いが苦手で、家にこもってオンラインゲームばかりしていたよ。

幸いにもコンピューターには強い方だったから、下世話な情報サイトやアダルトサイトの運営で稼いでた。

両親に先立たれてからはますます外には出なくなって、買い物やら諸々の手続きやらは全てオンラインですませるようになった。たまに会うのは宅配のニイちゃんぐらいのもんだったなぁ。

オンラインゲームでの人間関係は割と続いてたけど、だんだんそれも億劫になってきてねぇ。

オンライン上では俺と同じに見えても、現実のプレイヤーはみんなそれぞれ生活があるからなぁ。仲の良かったプレイヤーも、就職やら結婚やらでどんどん抜けてっちゃう。

周りのみんなは全て現実世界の人間で、自分だけがこの仮想空間にしか存在しない人間なんじゃないかしら、とすら思ってたね。

ありきたりな、でっかい動物をみんなで協力してぶっ殺すゲームだったんだけど、そのときにはゲーム自体がちょっと落ち目だったってのもあるな。


いつのまにか宅配便はロボットが持ってくるようになったし、体を壊した時にはロボット医者が来てくれる。いい時代だねェ科学の進歩だ。そうなったらそうなったで、もしかしたらもう世の中には俺一人しか人間っていねぇんじゃないの、とか思って不安になるんだから複雑なもんだね。


ふと思い立って、まさかまだやっているやつはいないだろうと思いながらも昔やっていたオンラインゲームにログインしてみたんだよ。そしたらまだちゃんと定期的にアップデートされてたみたいで人も結構いるのな。

懐かしくなっちゃってさァ、街中をウロウロしてたら当時の知り合いが結構いるんだ。俺のことも覚えててくれてさァ、アァそうか、俺はひとりぼっちじゃなかったんだなと思ったね。それでみんなで昔やってたみたいに化け物じみてでかい象をやっつけてさ。楽しかったなァ。一回も行ったことないけどさ、同窓会ってこんな気持ちなんだろうなァ。そんなことを思ってたね。


年のせいでさ、もう指もそんなに細かく動かなくなってきたけどさァ、あの脳波操作型のコントローラーってのは偉いね。プレイだけ見たら昔より上達してるぐらいだもん。プレイヤーを見たら電気椅子にくくりつけられてるみたいに見えるんだろうけど、もう誰も俺のことなんか見ていやしないからな。最後に服を着てたのがいつだったかも思い出せなくなっちまった。


人ってやっぱ欲を出すからサ、俺もこの年でなんだかちょっとずつ人とのつながりが欲しくなってきたときに、オンラインゲーム中で広告が出てね。SNSに登録したんだ、どうやら同じ会社がやってるみたいでさ。ゲーム上の友達も何人かやってるみたいだったし。そしたら結構こんな俺にも友達ができてさ。なんで今まであんなに人と話すの毛嫌いしてたんだろうなァと思ったよ。


一昔前だったら、こんな状態のジジイは孤独死するしかなかったんだろうけど、今の俺にはくだらない会話で笑ってくれる友達がいるからな。みんな俺と同じくらいのジジイなんだろうなぁ。ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、どんな見た目してたのか気になるなァ。いい時代に生まれたもんだなァ。

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