予期せぬ力

 ちょっと、ヤバいことに気づいてしまった。

 例えば俺が、あの人足元がちょっと危ないかも? とかふっと思うと、決まって転んだりするんだ。

 見かけで判断したんじゃなくて、なんていうか、勘みたいなものなんだ。根拠がないけどそう感じる。まぁちょっとした勘みたいなもんだって思ってた。

 けど、そういうことが続いて、気づいてしまったんだ。

 これって、予知能力ってやつじゃないのかなって。

 人の動きだけじゃなくて、物が落ちそうな時とか、雨が降りそうな時とか、そのほかいろんな時に仮称「予知能力」が発揮されている。

 でもそんな話を周りにしたって、ばかばかしいって笑われるだけで。

 うん、まぁ、子供ならともかく二十歳越えた大人がそんなこと冗談じゃなくてマジ顔で話したら、俺だって「おいおい大丈夫かおまえ」って言うだろう。

 ただの偶然が重なった、ってだけでは納得できない回数、「予知能力」で数秒から数分先の出来事を察しているから、俺の中ではすっかりこれは本物だってなっちゃってるんだけど。

 リアルじゃ話せないから、ネットでそんな力を持った人を探してみることにした。

 ……意外にもいるもんだな。けど、実際に見たわけじゃないから、この書き込みしている連中の何人が果たして本当に能力持ちなのか。

 多分、俺もエセものの一人だって思われてるんだろうけど。


『俺は自分の力は本物じゃないかって思ってるんだけど、ちょっと先の未来を感じるって言っても、誰も信じてくれないし、最近はちょっと自信なくなってきたっていうか。どう思う?』


 愚痴みたいな感じで相談の書き込みをしてみた。

 さて、どんな反応があるかな。


『どう思うって聞かれてもな』

『現実で否定されてるからここで肯定してほしいかまってちゃんか』

『その能力が本物なんだったら別に周りに認められなくても困らんだろ』


 あー、やっぱりそういう反応か。

 と思いつつ、ついつい一時間ほどしてリロードしてしまうのは、やっぱりかまってちゃんだからなのかも。


『そーいや、K県にリアルで能力者の相談にのってくれるって人いたよな』


 えっ? なにそれ。

 つっこんで聞いてみたら、K県でひっそりと異能者の力になってくれる、みたいな人がいるらしい。

 ネットでこうやってバレてるんだから、ひっそりもこっそりもないよな、と思いつつ今はありがたく相談に行かせてもらおう。

 その人の個人サイトからメルアドゲットでアポを取って、次の週末に会うことになった。


 約束の日、電車で菊川さん――本人いわく超能力研究施設の上役――に会いに行く。

 駅について菊川さんを待っていると、何だかすごい嫌な感じがした。体中がムズムズする。

 なにこれ、緊張? いや違う、これは予知能力の予兆だ。何かが来る。良くないものが。

 そう感じた方を見た。すごいスピードで走ってる車がハンドル操作を誤ったのか、ロータリーに突っ込んできた。バス停の柱にぶつかって大きな音がして、車が横倒しになってすべってく。――そこにも、人がっ!

 吹っ飛ばされる人、悲鳴、泣き声、もうまわりはパニックだ。

 こうなるだろう、って思ってたからショックは少ない、けど。

 あぁ、この予知能力があと五分、いや三分でも早く発揮されてれば、せめて車にぶつかって怪我をする人を逃がせたんだろう。

 これは早く菊川さんに力の使い方を教えてもらわないといけない。

「君、君がリキさんだね」

 ふいに声がかかった。ハンドル呼ばれてちょっと恥ずかしいとか感じながらそっちを見ると、四十ぐらいかな、おっさんがしかめっ面で立ってる。

「えぇっと、菊川さん?」

「うん。……今の、君の……、いや、ここじゃまずいな。移動しよう」

 菊川さんに連れられて近くのファミレスに入った。一番端っこの席で腰を落ち着ける。

 外では救急車やパトカーがサイレンを鳴らしてあわただしく走ってる。駅の事故の処理に行くんだろう。

「まずいことになったな」

 菊川さんが小さな声でつぶやいた。

「そうですよね。俺がもうちょっと早く察知できていれば」

 彼に視線を移してうなずいたら、菊川さんが驚いた顔をした。

 ん? なんでそんな顔? 俺が予知能力を持ってるって事前に話してたよな。

「そうか……。予知能力を持ってるって話だったよね」

 彼は納得したようにうなずいたけど、残念そうに息をついた。

 なんで、そんな顔するんだよ。

「いいかな、リキさん、よく聞いて。君にとってショックな話だけど」

 菊川さんは真剣そのものの顔で、声で、俺をじっと見つめてさらに声をひそめた。

「君の能力は、予知能力じゃない。念動力だ。それもすごく不安定な」

 ……えっ?

「君が『こうなるんじゃないか』って思ってその通りになったって思っていることは全部、実は君が無意識に引き起こしていることなんだよ」

 ……はい?

「これからは力をコントロールすることを覚えていかないと――」

 菊川さんの声は、なんだか遠くに聞こえるだけなぐらい、ショックな事実だ。

 つまり、あの人階段を落ちるかも、とか、雨が降るかも、とか、何かが突っ込んでくるかも、って思ってその通りになってきたのって、俺の能力が暴走して起こした、ってことなんだよな?

 じゃあ、さっきの事故も、俺が……。

 背筋がぞっと冷たくなって、目の前が真っ暗になった。



(了)



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 お題:後で思い出して考えると怖い話

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