夢想無双

 最近、戦場でたくさんの兵士をほふる夢を見る。

 俺は兵隊で、今は戦争中なのだから、夢に見るまでもなく毎日殺傷沙汰のただなかだ。

 戦場が怖いというわけでもない。自軍の、自国のためならばこの命を賭して働こう。自軍の中でもエース級の扱いなのだから、そうする義務も責任もあるのだと自負している。

 夢は、起きてしまうと景色などは途端に曖昧になるが、どうやら敵兵をなぎ倒しながら勢いよく進軍しているようで、目覚めてしばらくは高揚感を覚えるほどだ。

 戦いを好むわけではないが、気分がいい。そしてそういう日は調子がいいのだ。


 またあの夢を見た。

 今度は、起きてもそれなりに覚えている。

 ……なぜか、自軍の兵士たちを薙ぎ払っていた。

 これはストレスのあらわれか。

 確かに、今朝の夢の中で俺に斬られていた上司は無茶なことばかりを言うし手柄は自分のものにするのにミスは部下に押し付ける男だ。そのそばにいる同僚も口ばかりで武働きどころか足を引っ張る始末だ。

 だからと言って、たとえ夢の中でもあんなにもあっさりと袈裟がけにしてしまうとは。

 自覚しているよりも彼らに対して憤慨しているのだ。気をつけねばならない。


 それからも、夢の中で自軍に攻撃を仕掛けることが時々あった。

 最初はゆゆしきことと思っていたが、考え方を変えると、夢の中で彼らを手にかけることにより溜飲を下げているとも言える。おかげで少々のことはさらりと流せるようになった。

 偉そうぶっているが貴殿らは俺の夢の中では敵兵――俺を相手に腰を抜かしているのだぞ、と。

 よいこと、とまではさすがに言わないが、まぁ悪くもない。


 明日から新たな戦地で敵と戦わねばならない。

 その夜も、夢を見た。

 今までよりもより鮮明な夢だ。

 敵を斬る感覚、感触、彼らの悲鳴、血の匂い、剣戟の音と衝撃。

 そして勝利を収めたところで、目が覚めた。

 夢の中での勝利、それは、実際に置き換えると敗北を意味する。

 いよいよ激戦地で戦わなければならない緊張からなのか。負けられぬ重責が、自軍敗戦の夢を見せたのか。

 いつもなら気にならないが、前線に出る直前では、やはり気になる。


 陽が昇る前から支度をはじめ、戦地に赴く。

 ……ここは。

 夢に見た場所だ。

 不吉な。しかし気にしている場合ではない。

 軍を前に進め、密かにその時を待つ。

 かかれ、の号令があがり、騎馬隊が先陣を切る。

 俺は自分の隊を従え、その後に続く。

 戦況は有利。敵の戦線を押し下げていく。

 功を望む者がさらにいきり立ち、進軍する。

 俺も負けじと敵を屠る。

 だが。

「なんだこいつは!」「強すぎる!」「えぇい、ひるむな、かかれ!」

 左手から味方の慌てふためく声と怒号、続いて断末魔が響いた。

 そちらを見ると騎馬隊が惨敗している。生き残った者らも散り散りになって這う這うの体だ。

 やぶれかぶれになった兵士が最後の気力を振り絞り「奴」に挑むが、あっけなく返り討ちにあっている。

 上官が、同僚が、部下が、次々と倒れていく。

 俺を煩わせていた能無しどもは、奴を前に腰を抜かしている。

 ……これは、夢のままではないか。

 ごうの者がこちらを見る。血に濡れた剣を手に、ゆっくりと近づいてくる。

「貴様か。夢の中の『俺』は」

 フルフェイスヘルムの中から、くぐもった声が聞こえた。

 俺は、ここに至って、ずっと見続けていた夢の意味を思い知らされた。

 あの夢の、結末通りだとすると、俺は――。



(了)



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