第13話 魔王、共闘す。

「なら私はいかがかな?」


人垣を割って、魔王が申し出た。ニーゼルは顔をしかめた。


「ご覧の通り、無力な女子だ。そちらの男よりずっとご期待に添えると思うが」


「断る」


ニーゼルは即答した。


「確かに絶世の美女だがな、同時にとんでもなくキナ臭いときたもんだ。おっと、これ以上近寄ったらこのガキを一刺しするぜ。コイツが目的だろ? このタイミングで出てきたってことは」


「ベラベラと舌の回る」


魔王としても引き下がるしかない。本来ならばあの勇者を一閃で殺す手段などいくらでもあるが、今の女子高生姿では望みようもない。


「おら、起きろ」


ニーゼルは気絶していた京一郎の腹を何度か蹴り、目を覚まさせた。


「それを持ち上げてみろ」


「く、う……」


京一郎は悔しそうにニーゼルを一瞥すると、”逆鱗”の根元を両手で握りしめた。


「んふ、っん!」


思い切り力を込めたのだろう。それが勢い余って、引き抜いた方へとよろめき、あわや人垣の方へと倒れ込みそうになったのをなんとか踏みとどまった。


「なにやってんだ、バカ野郎が」


「あ、ああ」


怒声を上げるニーゼルの元に、戸惑いつつも京一郎は運んで行った。


その光景を魔王は目を丸くして見ていた。


(ろくな筋力もない結城が、なぜああも簡単に”逆鱗”が持てる?)


もし京一郎が勇者だったならば選ばれし勇者ということで納得はいく。しかし現時点では京一郎は勇者に目覚めていないのだ。だからこそこれから魔王は苦労して勇者へと育てようとしている。


(もしかしたら私は、大前提から間違っているのかもしれん)


そう考え込んでいる間にも勇者一行は魔王のいる位置から離れていく。ここから少し離れた場所にある馬車に乗り込み、幌台の中でしばし騒ぐ音がしたと思いきや、すぐにニーゼルが御者台に姿を現した。


「では、また来るぜ。せいぜい絞らせてもらうからよ」


「……」


上機嫌のニーゼルと対照的に、全身を震わせるアネフは去りゆく馬車の荷台をずっとにらみ続けていた。


馬車は”工房”と別の”世界”をつなぐ道がある門を通り抜け、悠々と元の世界へと帰っていく。


「さてどうする? ここの主はお前だ、クラフト・スパイダー」


「すでに糸はつけてある」


アネフの脚の一本が持ち上がると、その先端に光の加減でキラキラと鋭く輝く筋があった。アネフの糸だった。


「それでやつらの居場所を探すというわけだ」


「しかし問題は潜入に適任者がいるかどうかだ。我らは職人であって兵士や傭兵ではない。幾ら腕っぷしに覚えがあるといっても戦闘のプロ、しかも勇者の一行という精鋭中の精鋭の相手になるかというと心もとない」


「そこで取引だ。その兵士。私が用意しよう。私としても結城を連れていかれるのは困るのでな」


「ほう……魔王ともあるものが本当に随分と入れ込んでいるンだな。もちろん頼みたい。代価はいかほどになる?」


「まあ、これは互いに便乗する形だからな、トントンでよかろう。この先も取引があるだろうしな」


「ふむ……悪くない。で、兵はいかほど出してくれるンだ? 勇者の一行相手だからな。30か? 15か?」


「1だ」


「ちょっと待て。そんな無茶な。死ににいくようなこと……」


魔王は自信満々の笑みを見せた。


「出し惜しみはしない。四天王を出す」


「な……!」


さすがのクラフト・スパイダーも絶句しかなかった。


文字通りの一騎当千。


否。


一騎当万の超戦力。それが魔王の四天王だと噂されているからだった。


「ま、連中もたまには仕事をやらせんとな」


「お前がいうンか?」




続く。

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