第10話 <鬼>、覚醒。
とある空間。
まるで大学のラボを思わせる設備があった。その一角にひとつの部屋が設けられていた。せいぜいが10メートル四方の正方形をなしていた。不可思議なのはその部屋にはどこにも出入り口がないことだ。それはこの敷地内の部屋すべてが同様だった。
建物というよりただ箱をつなげただけの積み木。
それがこの施設だった。
例の部屋には人間が横たわれる金属製の同じ型のカプセルがひとつづつ四方の壁に立つように安置してあった。その内のふたつは蓋が上へと開いており、中身は空だった。
ぽおおおおぉぉぉんん……。
迷子の呼び出しチャイムのような音がどこからともなく部屋に響いた。それに応じて残りのカプセルの扉の隙間から蒸気を漏らしつつ、貝の蓋のように上がった。
ふたつはシンクロしているかのように動作を終了した。
中から降り立った人影も、同時に第一歩を踏み出した。
「にぇむいぞ……しゅ、朱雀」
外見は小学生高学年としか見えない幼女のような女の子だった。ただ額から生えている一本の角だけが異彩さを放っている。巫女服をまとっているが、袴はミニスカートに改造してあるなど、自己流にアレンジしている。
「玄武。しっかりして欲しいな。それでも我ら<鬼>の頭目か?」
凛とした声でたしなめたのは、全身朱塗りの鎧の少女だった。腰まで伸びた銀髪が麗しく、朱色と見事に溶け合う。額からは二本の角が威嚇するように生えている。鎧の意匠も独特で、肩当も胴も脛当ても鬼の面の形を取り入れており、その威圧感はいかにもただものではなかった。全身の角で威嚇しているようだった。
「<鬼>といっても実態はただの使い走りではないか。今回も大したことではないに決まっておるわ」
玄武が小さな手を目の前のガラスを拭うように動かすと、そこにモニターが現れた。朱雀もすくにその動作にならう。
「ふむふむ、こいつか。朱雀が前々から目をつけていたな」
「ええ。素行不良ですから」
「品行方正な”魔王”というのも変だと思うがの」
「ついに”C”も重い腰を上げたというわけですね」
「というか、これはずいぶんと思い切ったことをやらかそうとしているな」
「この”宇宙”の秩序を乱す行為です。許されません」
「まあまあ、朱雀はこの魔王のこととなると息が荒くなるな」
「そんなことは」
「とはいえ」
玄武は両手をパンと打ち鳴らした。モニターも消える。
「やることは毎度同じだ。”世界”の歪みを正し、元通りにすること」
「ええ、わかってます」
「あと、朱雀は魔王に手を出すな。私がやるから」
「なぜですか?!」
「なーんか、私怨を感じがする。そういうの混じるとやりすぎて、それはそれで”世界”の歪みにつながるんだからね?」
「く……」
「まあ、その世界の”悪”を倒す程度のこと、私たちにはお使いのようなもんだ。気楽にちゃっちゃと片付けて、また眠りにつくまでの時間を遊んで暮らそう」
「わかった。でも白虎と青竜がいないのは残念ねえ」
「他の仕事だろう。運が良ければ合流できるかもしれん。入れ違いになるのが毎度のパターンだがな」
「まったく、私たちの力をもってしても運ばかりはどうにもできないわねえ~……」
「ぼやくな。さて、いくぞ」
「は~い」
まるで床が消滅したかのように、ふたりの姿が不意に落下するごとく消えていった。
しかし、床はまるで変った様子もなく、硬く横たわっているばかりだった。
続く。
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