カンナと咲

第44話「号泣する親友」

 カンナは経験したことのない寒さに滅入りながらも、相変わらず本ばかり読んでいた。しかしさすがは血華というところで、どんなに薄着していてもカンナは風邪一つひかず、むしろ長崎にいた頃よりも精神的に楽だった。カンナは新聞もテレビも極力見ようとはしなかった。それが一番カンナにとっては心の平穏を保つ最善の方法だったからだ。しかし、カンナはその日に限って配達されてきた新聞を光介よりも先に読んでしまっていた。いつもは家の中にあろうが新聞受けに挟んであろうが見てみぬ振りをしていたカンナだったが、新聞の表の写真にカンナは思わず目を瞠った。大きなカラー写真の下にはこうあった。


『原田由美さん(十七)の死に号泣する親友』


 随分遠くから撮影されているが、ピントはその親友に合っていた。俯いて目にハンカチをあてているため、顔は良く見えないが痛々しい少女の様子がよくとらえられている。カンナは知らなかったが、この原田由美の死は全国的にも大きく取り上げられていたのだ。それは由美の死が特別であったということだけではなく、奇病患者の同年代の同姓の友人が、その葬儀に現れたという感動的なものとしても。カンナはその写真から目が離せなかった。


 写真の中の顔の写らない少女の正体を、カンナは知っていたのである。

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