第8話 ランチタイムに駆け引きを【秋葉文乃】

「ねえねえ、2人はさ、八代先輩のことどう思う?」

 今日の昼放送当番は私、楠見さん、三吉さんの1年生3人組だ。最初のころは最低ひとりは2年生や3年生が入っていたけど、最近は1年生だけの当番もちょくちょく組まれている。

 特に、楠見さんは中学からの経験者だから先輩方も安心して任せているようだった。経験者なのは別にいいけど、八代先輩と会える機会が減ると思うとちょっと面白くない。

 だからせめて、この時間を無駄にしないよう有効に使おう。ライバルのリサーチだ。楠見さんと三吉さんは唐突な質問に顔を見合わせる。

「どうって…良い先輩だと思うけど、ね?」

「うん、優しいし、話しかけやすいよね」

 2人とも鈍いな。そういう話しじゃないでしょうに。

「いやいやいや、そういう事じゃなくてね?かっこよくない?」

「確かに、整った顔立ちしてるけど、それが何?」

 楠見さん、そんな怪訝そうな顔しなくてもいいじゃん。それに、整った顔立ちって。素直にかっこいいじゃダメなの?

 三吉さんの方はぽかんとして成り行きを見守っている。こんなんじゃ、牽制なんて必要ないかもだけど一応言うことは言っておく。

「あのねー、私、八代先輩のこと狙ってるんだー」

 言外に、だから手を出さないでね?って響きを含ませつつ言葉を放る。

「え、え、狙ってるって、好きってこと!?」

「…」

 これまた対象的な反応だなぁ。楠見さんは"だから何?"って顔に書いてあるし、三吉さんは赤くなって目をぱちくりさせている。

「うん、先輩と付き合えたらいいなーって思ってるの。入学式の時にね…」

 私はあの運命の出来事をふたりに披露する。多少脚色したかもしれないけど、それくらい構わないだろう。三吉さんは熱心に聞いてくれて私のテンションも上がる。

「てことで、ふたりにも応援してもらいたいんだけど。同じ部に相談できる子いた方が心強いし」

「するする!わー、頑張ってっ」

 よし、これで一年にライバルはいなくなった。と、これまで黙々と聞きながらお弁当を食べていた楠見さんが口を開いた。

「応援はしても良いけど、そもそも先輩って彼女いないのかなー?モテそうだけど。もし居たらどうすんの?」

 その無神経な言い方にカチンときた。

「いないかもしれないじゃん。なんでそういうこと言うの」

「いや、私はもしもの話をしてるだけでさ。で、彼女居たらどうすんの?」

「そしたら諦めるしかないじゃん。楠見さんさ、応援してくれるんじゃないの?」

「...ふーん、諦めるんだ。ま、いいや。応援はするけどさ。でも、放送室はあくまで部活動の場だから、そこはわきまえてよね」

 わかった。妙につっかかって来たのはそういうことか。要は部活の場で余計なことをしようとする私が気に食わないのか。別にいいじゃん、もともと先輩追っかけて入部したんだから。他にやることないっつーの。

 私は不機嫌な気持ちを込めて、お弁当箱の卵焼きを箸で突き刺した。

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