第7話 ミステリーとSF警察
とある親切な人物がSF警察が危ないということを教えてくれた。
小生、超ビビる。通りで未来から刺客が送られて来る訳だ。
これからはなるべく近づかないようにしよう。
小生、今はSF警察で幹部生活をしているのだが、以前はミステリー評論家の一員だった。ミステリー評論家というのは、
『ミステリーとしては上手いけど、物語としては最悪だ』
という決めゼリフを持っている集団であり、それでもミステリーのトリックに命を捧げる集団だった。
小生は最終的に『ちょいミステリー、魅力的な物語』という路線に変更したため、彼らと袂を分かつことになった。
彼らは今も最高のトリックを探し続けているのだろうか?
というノスタルジックに浸る小生。
それもミステリー評論家の元同僚に出会ってからである。
「やあ、元気にしてたかい?」
こやつ裏切り者の小生にも気軽に声をかける良い奴なのだ。
ミステリー好きの名探偵(本物)というミステリーのために生まれてきたようなオナゴなのである。いつか完全犯罪を成し遂げるという思想さえなければ、小生と親友になれただろう。
小生はカフェでパフェを食べながら、最近はSF界にいるという話をした。
すると、元同僚は微妙な表情で「SFかぁ……」と呟いた
話を聞くと、近年、SFとミステリーが合体した作品が増えているらしい。
超能力殺人とか、タイムマシン殺人とか、監視カメラドラマとか、そんな作品が増えているという話だ。
小生、『チョーモンイン』が出てくる小説の愛読者なのだが、面倒くさいのそれは黙っていることにした。続きはどうした?
「ミステリーの可能性が広がったのはいいが、ルールがややこしくなった」
ミステリー界のルールは幾つかあるが、その全ては『作者が読者に対してフェアか』ということになる。
超能力という設定を隠していて、犯人当てのときにいきなり出てきたらアウト。
始めから超能力がありますよ、と説明した上で、それを謎に加えることはセーフ。
とこんな感じである。
「私は謎解きを読んで、素直に『なるほど』と思える作品が好きなんだ。だから、あまりややこしいと前の文章を何度も読み返さないといけない。『エジプト十字架の謎』見たいな作品はどこに消えたのだろうね」
熱弁である。『エジプト十字架の謎』はミステリー初心者にもお勧めの名作であるが、今は関係ない話である。
確かにミステリー界は複雑化している。だが、それはSF的小道具を多様しているという問題だけに限らず、そもそもミステリー界全体の問題なのである。
メタとか、男と思ったら女とか、あれとか、これとか、ネタバレになるのでここでは書かないが、読者を驚かせたいのか、イラつかせたいのか不明な設定が増えた時期があるのだ。
だからこそ、小生は「ちょいミステリー、魅力的な物語」路線に変更したのである。そんな感じで、元同僚を説得してみた。無理はするな、と。
「そうだな。私も過去に帰ろう。無理して未来に行くことはない。ホームズ、ポアロ、マープル。今も輝かしい名探偵が私をいつでも迎え入れてくる。素晴らしき栄光の日々よ」
小生はエラリークイーンはどうしたと思ったが、黙っていることにした。
そもそも名探偵の名前を挙げるとき、エラリークイーンの名前はあまり出てこないのである。金田一 耕助より知名度低し。
パフェを食べ終え、殺人現場へと向かう元同僚と別れた。
彼女の表情は晴れ晴れとしていた。
それはミステリーというジャンルから解き放たれた人間の顔だった。
小生が『七回死んだ男』の大ファンであることはバレずに済んで一安心。
あれはSFだろうか? SF警察に尋ねたらノーと言われそうである。
<ミステリーとSFに栄光あれ>
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