センス・オブ・スカーレット

呪われし世界

プロローグ

始まりの戦場

　むせ返るような生臭い血と硝煙の悪臭が、戦場と成り果てた市街地を厭（いや）なほど満たしている。

　しかし、本来なら聞こえてくるはずの剣戟や銃声などの騒音はまるでなかった。広場には見るも無残な姿で無数の死体が死屍累々とそこらじゅうの地面に転がっており、辺り一面赤黒い血の海が限りなく広がっていた。

　今や地獄絵図と化した逃げ場のない戦場の中心に取り残された、少年と少女の二人の兵士。一人は死んだように安らかな顔で眠り、一人はいつまでも地べたにぐったりと泣き崩れていた。

「ごめんね……全部、私のせいで……」

　止めどなく涙を溢れさせながら、少女はただただ己を責めていた。

　なぜあの時、彼らを護ることができなかったのか。どうして彼らの命を救うことができなかったのか。自分がしてしまった愚かな行動のせいで、彼らを見殺しにしたようなものだ。全身を引き裂くような後悔の念が、何度も頭の中を駆け巡っていた。

　だが、いまさら何を嘆いてももう遅い。

　少女は、目の前で眠っている青年に最期の言葉を囁きかける。

「……私もすぐそっちに逝くからね。あなたの仇を討ったら……」

　目尻に溜まった涙を拭い、緋色の瞳に決意の色を滾らせる。

　もうどうでもよかった、彼がいない世界なんて。

　たとえ生き残ったとしても、これからこの腐り切った世界で生きていきたいなど決して思わないだろう。ここで皆の仇を取り、自分も潔く死ぬ。そして、死後の世界で彼と再会する。そうすればまた、彼の声を聞くことができる、彼の温もりを感じることができる——。

「……また逢おうね」

　青年に別れの言葉をかけると、少女はゆっくり立ち上がる。今はもう、目の前に佇む強大な敵を斃（たお）すことしか考えられなかった。

　だが、この戦いから全ての歯車が回り始めるとは、今はまだ誰も知り得るはずもなかったのだった。