おしまい

めきし粉

おしまい

 痛って。

 撃たれた。撃たれた。えっ、かすっただけだって?馬鹿モノ。ああ、血が出ている。痛い。痛い。我が輩は撃たれたんだぞ。痛いんだぞ。それをよくもお前は。撃たれた身にもなって見ろ。ほら血が出ているじゃないか。それをよくも、かすっただけだなんて、他人行儀に言えるな。全く、貴様らはいつからそんなに冷酷になったんだ。ええ言って見ろ。なに?絆創膏貼るって?馬鹿を言え。子供のケガじゃあるまいし。包帯だ包帯。いや、その前に消毒だ。赤チンだ赤チン。いやオキシドールの方がいいな。あのシュワーってあぶくが出る奴。あれが良い。アレにしてくれ。なんだそれ。マキロンじゃないか。そんなの子供のクスリだ。我が輩は鉄砲の弾が当たったんだぞ。わかっているのか。なんだ貴様は、だからただのかすり傷ですって。よくもまぁそんな口が。ええ?本当に当たったのなら、喋るどころじゃありませんって。いいか。我が輩に向けて鉄砲の弾が飛んできた。それで我が輩が怪我をしたんだ。どうだ。鉄砲の弾に当たったんだろうが。わかったらサッサとオキシドール取ってこい。衛生兵を呼べ。いや軍医を呼べ。担架をもってこい。ああ、本当に貴様らは名誉の負傷をなんだと思っているんだ。ええ、ボケッと突っ立てたのが悪いんですって、馬鹿者。ただボケッと突っ立っていたのならば、真っ先に標的にされて、すでに心臓か脳天を撃ち抜かれとるわ。我が輩だからかすり傷程度ですんだんだそ。えっ?やっぱりかすり傷だったって。おいこら。何もそこまで来ている救護班をおい返すこと無いじゃないか。呼び戻せ呼び戻せ。解っているのか。かすってようが貫通していようがそんなことは、些細な問題だ。問題は我が輩が撃たれたと言うことだぞ。さぁ早く担架を用意しろ。なに?向こうに爆弾が落ちて、手足がちぎれた奴がいますだと。かまわん。こっちが先だ。だって順番だろう。我が輩は怪我をした順番から言っても、その階級から言っても優先順位リストの一番上にあるだろう。ああん。向こうで片手がちぎれた奴が呼んでいますだと。馬鹿者。こういうときにこそ順番が守れないでどうする。人間の浅ましさがでているぞ。わかっか。わかったらおとなしく順番を待つように言え。ええ、わかったか。おい。何だ。お前は。さっきから、こっちを見て。所属階級を述べよ。なんだ、その手つきは、貴様我が輩を侮辱しているのか。大体貴様その服はどうした。軍服はどうした。軍服は。ははん。貴様逃亡兵だな。わかっているのか敵前逃亡は銃殺と相場が決まっているのだぞ。おい。誰かあの男を捕まえて来い。誰ですか?って、あいつだあいつ。なに?人なんていませんだと。馬鹿者。よく見て見ろ。あそこにあの黒い服をきた奴がいるだろうが。そうだ。見えたか。痩せた奴だ。ようやくわかったか。さぁ早く呼んでこい。ひょっとすると敵が送り込んだスパイかもしれん。何をもたもたしている。逃げられるぞ。さぁ早く捕まえてこい。むむ。おとなしくこっちに来るのか。ははんさては貴様敵が送り込んできた刺客だな。我が輩の暗殺に失敗したモノだから直接命を狙おうというのか。良い度胸だな。そおれ。取り押さえろ。押さえろ。ははは。敵陣にたった一人で来るとは、さては貴様は捨て駒にされたな。どうした。なにかしゃべらんか。大体貴様、鉄砲も持たせて貰えなかったのか。なんだこの農具みたいな武器は。ははん。わかったぞ。貴様は民兵の出だな。普段は農民なのであろう。だから、そんな黒いおかしな格好をしているであろう。おおかた甘言を言う奴らに唆されたのであろう。なるほどなるほど。お前は味方に裏切られたようだが、しかたあるまい。我々は捕虜はとらぬ。悪いが即銃殺だ。わが輩達を恨むなよ。捕まった我が身の不運を恨めよ。


 黒い服を着た男は、兵隊達に向かってニッと笑って一言。

「俺を捕まえた不幸を恨めよ」

 その言葉が終わった瞬間、兵士達の頭上で一瞬ぴかりと光ったかと思うと、敵も味方も何もかもその一瞬で真っ黒な焼け炭になってしまいまい、全てが終わりました。

               おしまい

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おしまい めきし粉 @mexicona

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