第2話 starship is down

エアロスピーダーのエンジンを切って、滑空する。風が鳴る。

地平線の彼方、肩越しに見える、咆哮をあげる鯨のようなシルエット。かつて銀河を目指したマザーシップの残骸だ。

自らの愚行により星を蹂躙した人間たちはその侵食を彼方まで伸ばそうとした。当時の科学力の粋を集めたその大いなる船は、伝説になぞらえて尊い名を与えられた。世界を呑み込む洪水から、すべての種を乗せ救った船の名。そう、希望そのものだったのだ。

神は確かにいたのであろう。

大気圏を突き抜けるはずのその白鯨のような巨躯は、重力を振り切ることができなかった。呪われたように。鉄の軋む音が大空に響き、空は血の赤に染まった。


轟音と共に、巨大な鱗が剥がれ落ちた。幾枚も。幾百枚も。

無慈悲なる大いなる神は愚行の主を許さず、重力に縛り付けた。地に落ちた大いなる希望は剥がれ落ちた鱗を巻き上げながら地表に突き刺さる形で墜落し、現在もそこにとどまっている。

燃料に引火していたらおそらくここも大渓谷になっていただろう。事故のあと、事後処理を請け負った命知らずたちが集められ、作業に従事する者達の街ができた。

帝国はわずか数ヶ月で回収作業は無駄と判断、方舟を遺棄する方針を固めた。

しかし方舟からもたらされるテクノロジーや蘇生に成功した科学者などにより、街は独自の発展を遂げることになる。鉄と錆、喧騒と欲望の街、不夜城。喧騒の街、様々な呼び名で知られる、旧市街Division AK。


軍属の時はこの空域には立ち寄ることはなかった。無法者に撃墜される可能性が高いからだ。ここを飛べるのはいわば非正規なもの、イレギュラー。つまり宇宙海賊、空賊、デブリ回収業やレインメーカーなどのならず者、荒くれ者たち。


船群探知機に一隻の船影。ピーターはゴーグルを手で拭い、モーゼルの弾倉を交換した。

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