石垣絋太 〜イシガキコウタ〜
3月8日
いつも以上に時間を気にしながら仕事をしていると、プロジェクトルームの電話が鳴った。
「紘汰さんからの電話だと思うから僕が出ます」
電話に出ようと受話器に手を掛けた事務の方にそう言って受話器を取ると、電話をかけてきた相手は予想通り石垣紘太さんだった。
「はい、姫路プロジェクトです」
「石垣ですけど」
「紘太さん、待っていたよ」
「なんだ、プロデューサーか。もう下に着いたから荷物の搬入を手伝ってくれ」
「わかった。今から行くから待っていて」
「はいよ」
紘太さんはそう返すとすぐに電話を切ったので、僕はすぐにプロジェクトルームを出て事務所の駐車場へ向かった。
「お待たせ」
駐車場では紘太さんが自分の車から幾つもの段ボールを降ろしている最中だった。
「プロデューサー、事前に話はしているからわかっているとは思うけど喫茶店の隣に運んでくれ」
「了解」
「俺はもう一度取りに行くから」
僕が紘太さんの用意した台車に段ボールを乗せている間に紘太さんは実家へ戻った。
「さて、これで良いかな」
段ボールを全て搬入し、段ボールの中に入っていた古本を先日常務の発案で喫茶店の隣に設けられた図書スペースの本棚前に分類別で置いていると紘太さんが新たな段ボールを持って戻ってきた。
「凄い数だね」
「これでも氷山の一角だけどな。でも、引き取り手が見つかって良かったよ」
紘太さんが実家から持ってきたこの本は数ヶ月前まで紘太さんのお爺さんが経営していた古書店で売っていた本で、閉店と同時に売れ残ってしまった本の引き取り手を探しているという話が事務所内に図書スペースを作ることを企画していた常務の耳に入ったようで、常務が自費で売れ残りの一部を買い取り寄贈という形で事務所1階の図書スペースに置くことになった。
「さっきまで味気なかったのに、本が加わるだけで印象が変わるな」
「そうだね、寂しかった空間が過ごしやすい空間になった」
たった1年で事務所の雰囲気も随分と変化したものだと思いながら僕と紘太さんは喫茶店に立ち寄り、一仕事終えた後のコーヒーを楽しんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます