光向日葵 〜ヒカリヒマワリ〜

2月5日


「もうオレはやらないからな」


 乃木橋水音さんの付き添いで行っていた地方ロケから帰ってきた僕がプロジェクトルームへ戻ると、僕よりも男らしい一人称の光向日葵ちゃんがマネージャーで僕の後輩である風切くんと口論をしていた。


「どうしたの? 向日葵ちゃん」


「ご、ごめん、プロデューサー。疲れているのにうるさくして」


「それは全くと言って良いほど気にしていないけど。それよりも、何かをやらないと言っているように聞こえたけど?」


「ごめんなさい」


 怒ったつもりは微塵も無かったのだが、向日葵ちゃんは僕が怒っていると思われても仕方のないような口調でそう言ったので反射的に謝ってきた。


「別に怒っている訳じゃないから、プロデューサールームで落ち着いてゆっくりと話してくれない?」


 人の目がある場所で話す内容ではないと判断した僕は向日葵ちゃんを連れてプロデューサールームへ入った。


「じゃあ、どうして風切くんと口論になっていたのか話してくれる?」


「えっと、マネージャーがオレに無理矢理スカートを履かせようとしてきて」


「それは、あくまで風切くんがそのような仕事を向日葵ちゃんには相談せずに持ってきたという事で合ってる?」


「……。あ、当たり前だろっ! 無理矢理って言っても物理的にじゃないからなっ!」


「それなら仕方ないだろう。それが、向日葵ちゃんの仕事だし」


「それはオレもわかっているけどさぁ、スカートとかワンピースみたいにひらひらしたものを履くといつもと同じでも仕事が楽しめなくて」


「だからスカートを履く仕事はやらないって事か。うん、わかった。じゃあ、風切くんには僕から伝えておくよ」


 自分が楽しんでいない姿を絶対にファンに見せたくはないという向日葵ちゃんの強く、固い意志を尊重して、僕は向日葵ちゃんがスカートを履いても仕事を楽しむことが出来るようになるまでの間だけ向日葵ちゃんにスカートNGを許可することにした。

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