志村羽月 〜シムラハヅキ〜

1月21日


「プロデューサーにこれあげる」


 プロジェクトルームで仕事をしていると、志村羽月さんが老舗の和菓子屋で、実家でもある『志村屋』の紙袋を差し出してきた。


「羽月さん、特別な日ならまだしも何てこともない日にそれは受け取れないよ」


 志村屋の和菓子というと、よほどのことがない限り自分で買って自分で食べる事は出来ないほどの高級品であることは志村屋を知っている人なら常識で、それは実家が志村屋である羽月さんも重々承知しているはずだった。


「そんなに警戒しなくて大丈夫。この紙袋に入れて来ただけで中身は商品じゃないよ」


 そう言われ、僕は恐る恐る紙袋の中身を取り出した。


「タッパー?」


 この紙袋の中に入っている想像なんて全く出来ないものが出て来たことに僕は驚いたが、それ以上にその中身を見て僕は再び驚いた。


「この中に入っている大福ってやっぱり商品でしょ?」


「だから違うよ、プロデューサー。これは『まだ』商品じゃないの。このチョコ大福はバレンタインデー限定で売るために作った試作品なんだけど、第三者が感じる味の感想を知りたいから食べてみて。


「そういう事なら」


 僕はそのチョコ大福を一口食べてみた。大福の中にはチョコレートとあんこが入っていたが、互いが互いの良さを潰すことなくバランスの良い味わいが口に広がった。そして、この大福の凄いところは初めて感じ取った味にもかかわらず脳が今食べたものを味だけで志村屋の和菓子であると判断したところだった。

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