市井裕也 〜イチイユウヤ〜
今日の事務所は明らかに異常だ。
「裕也さん、トリックオアトリート」
「海人か、残念だがお菓子なら持ち合わせていないぞ」
今日だけでもう10回以上は事務所の子供たちにお菓子をねだられている。ちなみに10回から先は数えていない。
「なんでハロウィンなのにお菓子の1つも持っていないんだよぅ」
「悪いな」
10月の恒例行事となりつつあるハロウィンだが、少なくとも俺が子供の頃は派手な仮装をしてお菓子をねだるなんて行事は存在していなかった。
「Trick or Treat」
「誰だか知らんがお菓子なら……」
そう言って振り向いた私は言葉を失った。
「ハロー」
一言目とは違い日本人風にそう言ったのは下半身に段ボールで作った馬のような仮想を施した真上・アンジェリーノだった。
「お菓子ならないぞ」
「え~ ならユウヤにはイタズラだ」
真上はそう言うと本物の身体だけを180度回転させて、馬の胴体からサンタクロースが持っていそうな白く大きな袋を取り出した。
「大量のお菓子をプレゼント」
「いらないし、邪魔なのだが」
そう言ったのだが、あの真上がまともに話を聞いてくれるはずもなく真上はその恰好のまま仕事へ行ってしまった。
「どうするんだこれ……」
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