本田一護 〜ホンダイチゴ〜
夏休み前最後の金曜日、午前中最後の授業が終わると校内は生徒、教員合わせて200人以上いるのにもかかわらずシンと静まり返っていた。
その中で唯一音を鳴らしていた時計の秒針が12の刻で長針と短針に重なると、夏休み明けには失われてしまう本物のノイズ音が
「プツッ、プツッ」
と寂しく鳴った。
「初野廻の校内放送」
ゲストの本田一護による最終回かと思わせるタイトルコールとは異なりいつもの軽快なオープニングテーマが流れた。
「お聴き頂きましたのは今回で最後となる本物のノイズ音でした。しんみりした気分を切り替えて皆さんこんにちは。初野廻です。そして、休み前最後のゲストはこの方です」
「噂には聞いていたけど、良いものを聴かせてもらった。和水プロダクションの本田一護だ」
「今週も今月末に迫った夏フェスについてお話ししたいと思います」
オープニングトークが終わり少しの間を置いてフリートークの時間が始まった。
「改めまして初野廻です」
「本田一護だ」
「さて一護さん、夏フェスまで残りおよそ2週間となりましたがレッスンの方はどうですか?」
「ぼちぼちって感じだな。本番までには絶対に仕上げるからファンの子たちには楽しみにしていてもらいたい」
「5年目ともなると余裕が出てきますね」
「そうでもない。俺だってライブの時は緊張するし、客の入りが気になる事もある」
それは一護に限らず廻や他のアイドルも思っていることであった。
「緊張していても仲間がいれば少しだけ緊張が解れますよね」
「同じステージに立つユニットメンバーだけじゃなくてスタッフやプロデューサー、ライブを支えてくれている人がライブを通して緊張を分け合っているからな」
いつもと異なる雰囲気で始まった放送は最後までしっとりとした雰囲気が変わることなくエンディングに突入した。
「という事で夏休み前最後の校内放送はいかがだったでしょうか?」
「記念すべき日に立ち会えたこと嬉しく思う。また呼んでくれ」
「休み明けも和水プロダクションのアイドルをゲストに迎えてお送りしますのでお楽しみに。それでは今週はここまでです。お相手は初野廻と」
「本田一護でした」
誰が仕組んだという訳ではないが、放送が終わると
「ツー、プツッ、プツッ」
というノイズ音が予期せず流れた。
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