久保田健人 〜クボタケント〜



 夏目前だというのにも関わらずこの日は朝から身を縮ませるような寒さを乗せた強風が吹き荒れていた。そして、昼を過ぎると天候は悪化し、滝のように地面に強く打ち付ける雨が降り出した。


 その雨はすぐに公共交通機関に大きな影響をもたらし、和水プロダクションにもその影響が僅かながら出ていた。


「プロデューサー」


 土砂降りの雨に当たったのだろう、左手に強風で壊れてしまったと思われる骨組みだけの傘を持ち全身びしょ濡れで川野プロジェクトのプロジェクトルームにやって来たのは最近テレビに少しずつではあるが出始めた久保田健人だった。


「健人、来たばかりの所で悪いが今日のレッスンはこの天気でトレーナーが事務所まで来られないらしくて急遽中止になった。交通機関が復旧するまでは自主練をするなり好きにしてくれて構わないが、その恰好では間違いなく風邪をひくからさっさとシャワーを浴びて来い」


「わかりました」


 プロデューサー川野流の指示通りシャワーを浴びて冷えた身体を温めた健人はびしょ濡れになってしまった服の代わりにレッスンで着ているジャージーに着替えてプロジェクトルームに戻ってきた。


「プロデューサー、雨の様子はどうですか?」


「さらに酷くなっているな。一部では落雷による停電も起きているらしい。夜までに止んでくれるとありがたいんだが」


 その願いが天に届くことは無く時間が経つにつれ天気は悪化し続け、健人をはじめとする事務所を訪れていたアイドルたちは各プロデューサーからこの天気で帰宅するのは危険だと言われ事務所で不安な夜を過ごすことになった。



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