一ノ瀬真寿 〜イチノセシンジュ〜
鳴り止む事のない歓声を背に受けて、トップアイドル一ノ瀬真寿は車に乗り込んだ。
「平日だってのに大盛況だったな」
「まぁね。これがトップアイドルの実力ってやつかな」
真寿がライブ直前まで余裕綽々なフリをして客入りを気にしていた事をプロデューサー兼マネージャーとして誰よりも近くで真寿を見ていた川野流は気付いていたが、あえて突っ込むのはやめた。
「今日はこのまま家まで送って行くか? それとも事務所に戻るか?」
「身体休めたいし、家まで送って」
「はいよ」
流の運転で真寿の自宅へと向かっていると真寿は今日のライブの事を思い出しながらポツリと呟いた。
「綺麗だった」
「サイリウムか?」
「今まで見飽きるくらい見てきたけど、今日の光は1番だ」
真寿がそう感じたのにはある理由があった。
「いつもはまばらな光が今日は俺だけのために光ってた。感動しない理由が無いよな」
「ライブは明日もあるんだから涙は取っておけよ」
「わかってるっての」
真寿はそう言うと目に溜まった涙をそっと拭った。
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