猪鹿野蝶矢 〜イガノチョウヤ〜
ある日の川野プロジェクトのプロジェクトルーム、そこではゴールデンタイムのドラマでよく見かける二十代半ばという年齢の割に老け顔の俳優兼アイドル猪鹿野蝶矢が悩み顏でコーヒーをすすっていた。
「プロデューサー、お疲れ様です。冷蔵庫に撮影先で買ったお土産を入れておいたので若い子たちと食べて下さい」
「毎度毎度悪いな。それで、何か悩み事か?」
流は蝶矢の顔を見てそう図星を突くと自分のコーヒーを入れて蝶矢の向かいに座った。
「どうせまた下らない事で悩んでいるんだろ?」
「プロデューサー、こっちは悩んでいるんですからもう少し優しく扱って下さいよ。まぁ、言われている通りプロデューサーからしたら下らない悩みでしょうけど」
「俺は26のオッサンに対する優しさは持ち合わせていないんだ。さっさと言え」
「わかりましたから、若い子に強くあたれない腹いせに俺に当たるのはやめて下さい。あの、実は昨晩自宅でテレビを見ていたら年収7500万円だった芸能人が1年で生活が貧しくなって所得税を払えなくなったって話をやっていまして」
もし自分がその立場であったらと思い昨晩から悩んでいた蝶矢だったが、流は一瞬でその悩みに答えた。
「美月といい蝶矢といい無知過ぎるぞ、この事務所は歩合制と給料制があるんだから稼いでいる間は歩合制、仕事が減ってきたら給料制に切り替えれば良いだろう」
早口でそう言い切った流はコーヒーで乾いた喉を潤した。
「まぁ、俺がプロデュースしている間は歩合制で良いと思うがな」
蝶矢はその言葉に不覚にもときめいてしまった。
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