島村優姫 〜シマムラユウキ〜

新年度に入っても相変わらず改善されない「プツッ、プツッ」という年季の入ったノイズ音からその放送は始まった。


「週末金曜日のお昼となりました。1年生と転入生は初めまして、2、3年生はお久しぶりです。金曜日の校内放送で前年度からパーソナリティを務めています。初野廻……」


「じゃ、ないです。本当の初野廻は私です。では、私のフリをしていたこの人はというと……」


「はいは〜い。みんなに『ちょ〜マジメっちょ』って言われてるさいちゃんだよ〜。なんてね。1人和水プロダクションこと島村優姫です」


モノマネアイドル島村優姫が校内放送に生出演した事で各クラスに一定数いる優姫ファンは思わず昼食を食べる手を止めていた。


「という事で、新年度第1回目の放送にはゲストとして優姫さんにお越しいただきました。目の前で自分の物真似をしてもらうのは初めてですけど、凄く似てますよね」


「昔から友達や学校の先生のマネをするのが得意で、気付いたら声は本物なんて言われるようになってたんだよね」


「ちょっと小耳に挟んだんですが、優姫さんは最近ある実験をしたそうですね」


「その話もう広まってたんだ。うん、まぁ、カメラとか全く無いところでやったからほとんどプライベートみたいな話になるんだけど、御雛祝音ちゃんって同じプロジェクトの子と一緒に私のモノマネと本人の声を照合してみるって実験をしてね」


優姫は喜々としてその時の思い出を熱く細かに語り始めたが、2分程でタイムキーパーを務める教員から巻きの指示が出た。


「なるほど、結果のほどはどうだったんでしょうか?」


「こんな話をしている時点でオチはわかると思うけど、サンプルとして用意されていた30人の声全て照合の結果は100パーセント本人って結果が出た。一応言っておくと、祝音ちゃんの作った機械は録音した本人の声でも本人じゃないって結果が出るほど凄く精密だったよ」


「流石、声は本物と言われるだけありますね」


「アイドルらしくはないけどね」


優姫が自虐気味にそう言って視聴者の笑いを誘ったところで校内放送のエンディングが流れ始めた。


「もっとお話をお聞きしたいところですが、お時間が来てしまったようです。優姫さん、最後に何かあればどうぞ」


「じゃあ、少しだけ。島村優姫のカバーアルバム『一人舞台』が発売中です。和水プロダクションの子たちの歌を私の声とモノマネバージョンで収録してあります。あと、アルバムのタイトルにもなっている私の新曲『一人舞台』も収録されています」


「優姫さんをゲストにお迎えした第1回放送はいかがだったでしょうか? 次回も和水プロダクションから素敵なゲストがいらっしゃるようなのでお楽しみに。校内放送お相手は今年度もよろしくお願いします。初野廻と」


「語りすぎて長くなってしまいました。島村優姫でした」

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