御雛祝音 〜オヒナイワネ〜

「祝音、少し話をしよう」


「……私、ですか?」


プロデューサー兼マネージャーの川野流は同期の海音真心たちとレッスンルームの床に倒れこむまで汗を流していた御雛祝音を呼び出した。


「何ですか?」


何故呼び出されたのかその理由がわからなかった祝音に対して流は一息置かずに言い寄った。


「どうして普通を演じているんだ?」


「流石マネージャー、確かに私は普通を装っています。でも、これには訳があるんです」


「言ってみろ」


流の許可が出ると祝音は重々しい口調で語り始めた。


「私は昔から知らない事を知っていました。3歳の時は誰にも教わった事が無いのに掛け算をマスターしていました。4歳の時はその物を知らない、正確には見た事が無いのにランダムに混ぜられたルービックキューブを元に戻す方法を知っていました。しばらく私はそれが普通の事だと思っていました。でも、小学校に入学して同じ歳の人間と関わるようになってそれが普通では無いと知りました。自分が普通では無いと知った私は普通では無い自分は恥ずかしいと思いました。そこで私が思いついた方法が知らないのに知っている知識を使って普通を装う事でした」


「終わりか?」


「はい」


「じゃあ、その話を聞いて俺から一つアドバイス。普通を装っている無個性な祝音より何でも知ってる歩く辞書みたいな祝音の方が個性があって面白いぞ。どうせなら志奈と組んで天才ユニットとして売り出したらどうだ?」


「普通じゃない私は変じゃ無いですか?」


「変だろ」


流のその言葉に祝音は絶句した。

しかし、流の言葉にはまだ続きがあった。


「アイドルなんて、変で良いんだよ。俺のプロジェクトなんて変な奴の集まりだぞ。その中にいれば祝音なんてまだ普通なレベルだ」


流の場の空気だけで紡いだ言葉に心を打たれたのか、翌日から祝音は今まで使っていた私という一人称を前々から使ってみたかったというボクに改めて本当の自分をさらけ出しはじめた。


「普通に変だな」


「ありがとうございます。プロデューサー」


「そう言えば、昨日話したユニットの件だけど、正式にプロデュースする事になった」


流はそう言うと祝音の肩を軽く叩いた。

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