第3話
その意見内容も、部費を上げて欲しい、購買に置いて欲しい商品、食堂のメニューを増やして欲しいなど、それは多岐に渡るものだ。だけど、その趣向を理解していないと思われる一部からは、変わったアンケートが回答されることがある。
例えば、学校に幽霊が出る――とかだ。
こう言った、悪ふざけで投票された票も少なからずあるのだ。僕たちは、そういった投票を未然に防ぐ為にも、こうして一度アンケートに目を通し、こうしてまとめる必要があるのだ。
「で、どうだったの?」
天羽は、アンケート用紙をまとめながら聞く。
「どうと言われても、限りなく地球人に近かったかな。長い髪に、ワンピースを着て、便所サンダルを履いた、どこにでも居そうな普通の女の子だったな。ああ、あと――」
「あと?」
「スタンガンを持ってた」
「スタンガン? あの非殺傷性個人携行兵器の?」
「えーと……、そうかな」
小難しい言葉の羅列が返って来たが、恐らくは合っているのだろう。
「スタンガンは、襲われる危険性が高い状況に限り所持を認められているけど、その場所へ出歩かなければならない理由がないと所持が認められて無かったはずよね。この辺だと持っているだけで犯罪になるかもね」
「スタンガンって防犯に持ち歩くのも駄目なのか?」
「そうよ。スタンガンの売買自体は違法じゃ無かったはずだけど、使用と正当な理由が無く携帯することは違法だったはずよ。まあ、私たちの出来る堂々とした精一杯の防犯対策は、防犯ブザーの所持程度ね。防犯ブザーなんて、いざ襲われちゃえばきっとゴミ当然になるのにね」
これまた、厳しい一言だ。
「おいおい。少なくとも、持たないよりはずっとマシだろ」
防犯業界の人の為にも、僕が一つフォローを入れておく。
「そう? きっと、クラスであまり目立たない子なんて、襲われた恐怖で防犯ブザーなんて鳴らせないだろうし、特定の人にしか理解出来無い趣味を持つ子なんて、新しい趣味に目覚めてしまうかもしれないし、何かしらのコンプレックスを抱えている子なんて、こんなに私でも興味を示してくれるのね――なんて勇気を与えてしまうかもしれないじゃない? ほら、誰も使えてないでしょ?」
「ちょっと待て。付け入るどころか付け回してるじゃんッ!」
しかも、僕が。
「何の話かな。でも、私が聞いたどうだった――は、宇宙人と遭遇して、御門君は何もされなかったのかってこと。宇宙人に遭遇したなら、アブダクトされるって言うのが、やっぱり定番じゃない?」
「アブダクト? あの宇宙人に連れ去られるって言うあれか?」
「宇宙人に限らず、異星人とか、地球外知的生命体とかに連れ去られてもアブダクトなんて言うらしいけれど、やっぱり宇宙人に連れ去られるのが理想よね。御門君は、どこかに連れ去られて、頭の中に銀色に輝く部品を埋め込まれたりしなかったの?」
「海外ドラマの見過ぎだ」
「それは、残念。貴重な経験を損ねたわね」
「僕に何を期待しているんだッ!」
だが、心当たりが完全に無いわけじゃなかった。
と言うより、忘れている事があるんじゃないかと言わんばかりに、脳がそれをフラッシュバックさせた――と言うべきなのだろう。僕は、自身を宇宙人と自称する少女と出会い、その後、瞼を開けていられない程の光に包み込まれた。
そして、目が覚めると家に居た。
つまり、家に帰るまでの記憶を僕は全く持ち合わせていないのだ。
僕は、あの日一体どうやって帰ったのだろうか。まさか、宇宙人にアブダクトされていたとか。その序でに、どこか改造されたとか。そう言えば、あの日少し頭痛がしていたような。
そもそも、あの一連の流れがあの夜に本当に会ったことなのだろうか。あれを夢だったと片付けてしまえば、それだけのことだと言うのに、わざわざこんな突飛な話を天羽に話し、夢なんかじゃなかったと思おうとする自分がいる。
今更ながら、何故かあれが本当にあったことだとすんなり受け入れられる自分がいることを疑うべきなんじゃないのだろうか。いや、すんなり受け入れられるように改造された自分がいる――と言うことじゃないだろうな。
背筋に寒気が走る。
まさか、な。
「御門君は、どうしてその子を宇宙人だと思ったの? 御門君の話を聞くに、少し変わった女の子って言う結論以上には、至らないと思うんだけど?」
それは、疑問に思って当然の質問だ。
「ああ、それは本人がそう言ってたんだよ。地球からおよそ三八万四四○○キロメートル離れた月からやって来た、地球人が言うところの宇宙人だと」
俺は、あったままのことを言った。
「一年間に三センチずつ離れて行っているから正確な距離は分からないけど、確かに地球から月までの距離は約三八万四四○○キロメートルで合っているわね。御門君が日本規模ですら知っていることが少ないのに、世界規模どころか、宇宙規模のことを知っているはず無いものね。この嘘を付く為だけに調べて来たと言うのなら話は別だけど」
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