第31話同窓会
身重の妻のために、また毎日会社員として、必死に働いていた。
ある日、僕に電話がかかってくる。
高校の同級生からだった。今度同窓会があるという。
「芸人してるらしいやん!噂は聞いてるで。頑張ってんの?」
「同窓会でなんかネタしよか?」
「ほんまか?」
久しぶりに高校の時の同級生にも会いたかったし、またネタできる機会が増えるかもしれないと、自分からすすんで、ネタをする事を申し出た。
R-1ぐらんぷりの予選も近づいており、少しでもネタの披露できる機会が欲しかったのだ。
どんなつまらないネタでも、何度も何度も心折れる事なくやり続け、スベってもスベっても試行錯誤し、一本の面白いネタが出来上がるのだ。
事務所を解雇になった今、ネタを披露できる場があるのは何よりありがたい。
「みんなに聞いてみるわ!ネタ楽しみにしてるわな!」
同級生はそのまま、電話を切った。
さあ、楽しみができた!
また、人前でネタができる。
早速、妻にも報告した。
「同窓会でネタするって、ええ感じやん!」
妻も二人目を妊娠したし、俺も頑張っていかないといけないな。と、思っていた。
そんなある日、家に帰ると妻が泣いていた。
妻が泣いてるなんて!
何があったのか?
すぐに聞いてみた。
「・・・アイロンが壊れてん。」
見ると、妻が僕のカッターシャツを片っ端からアイロンをあててくれていた。
いつもそうだった。
妻のおかげで、僕のカッターシャツは毎日シワがない。
そんな妻のアイロンが壊れてしまったのだ。
僕はすぐに、
「ええよ。そんなん。」
と、言ったが、妻は涙を流しながら、
「よくないよ!あんたは、あんたは、
人前に立つ人なんやで!!
シワシワのシャツなんて、着せられへんの!」
妻の、妻の優しさだった。
毎日、人前に立つ僕の事を思って、アイロンをあててくれていたのだった。
シワシワのシャツなど着せれないと。
そして、アイロンが壊れて泣いていた。
僕に、シワシワのシャツを着せる事を、シワシワのシャツしか着せれない事を、何よりも悲しんでいたのだ。
そんな妻の優しさに触れた・・・・
「今から行ってくるよ!」
「どこに?」
「アイロン買いにやないか!」
「あんた、もう夜遅いんやで!」
「関係あるかいな!」
僕も少し目に涙を浮かべながら叫んだ。
「最高の、最高の、いっちばん高いアイロン!買ってきたるからな!!」
そして、僕は表に飛び出していく。
最高の妻だ。
僕には、もったいない、もったいなさすぎる妻だ!
こんな妻を、一分一秒だって、泣かせてはいけない。
いっちばん高いアイロン、買ってきてやる!
走りながら、走りながら、
ただ、ただ、
・・・妻に感謝し続けた。
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